山下智久『正直不動産』8話 シソンヌ長谷川忍が支えるコミカルの構造

2022.5.31
正直不動産8

文=米光一成 イラスト=たけだあや 編集=アライユキコ


NHKドラマ『正直不動産』(火曜よる10時~全10回予定)。原作は『ビッグコミック』(小学館)連載中の同名コミック。ゲーム作家(『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』『あいうえバトル』など)でライターの米光一成がレビューする(ネタバレを含みます)。


騙されそうになる永瀬

山下智久主演の不動産営業を描いたお仕事ドラマ『正直不動産』。5月31日(火曜日)NHK総合午後10時から第9話「決戦!眺めのいい部屋」が放送、原作漫画4巻収録の「地面師」のエピソードがベースになっている。

高井戸で300坪の土地の売買、5億円の大型案件が転がり込んでくる。
永瀬財地(山下智久)と月下(福原遥)は、土地を売りたい「けやき野興業」と交渉するが、何か怪しい。
地面師ではないかと、永瀬は疑うが、確証が持てない。
地面師というのは、所有者が亡くなっている土地を班員グループが所有者になりすましてデベロッパーと売買契約を結んで大金をせしめる詐欺集団だ。
騙されそうになった永瀬が、徐々に「怪しさ」を見つけていく過程がスリリングに描かれた。

6億7000万円がパーに

怪しさ1は、つぶあんだ。
大河真澄部長(シソンヌ長谷川忍)の指導で、月下が持ってきた手土産は、つぶあんの豆大福。
これが、けやき野興業の専務(近藤公園)にウケて、「やっぱりこしあんより、つぶあんですよね」と盛り上がる。

ところが、近所の不動産屋で聞き込み調査したら、かつて専務と「つぶあんより、こしあんよねぇ」って盛り上がったことがあると言うのだ。
もちろん、ただ話を合わせただけかもしれないが怪しい。

怪しさ2は、永瀬の過去。
永瀬が、けやき野興業の交渉の仕方を疑った理由は、自分の過去にあった。
嘘ばっかりついていたころの自分のやり方と、けやき野興業のやり方がそっくりなのだ。

怪しさ3は、桐山の言葉。
永瀬は、6話で会社を辞めた桐山(市原隼人)に相談する。
相変わらず口数の少ないクールな桐山だが、帰り際にこう言う。
「似合わないスーツを着た人たちとは仕事したくない」
永瀬は、月下に相談する。確かにスーツに着られてる感じで、違和感があった。

そして、最後の決め手が、祟りの正直風だ。
怪しいポイントはいくつもあるが、どれも確証には至らない。
確信を持てない永瀬が迷っているときに、正直風がビュン!
「あなたたち本当は……地面師なんでしょ!」
ぶちまけて、決まりかけていた契約はご破算になってしまうのだ。
「違います、違いますよね」
もはや、月下のフォローではどうにもならない。
6億7000万円がパーである。

ところが、「土下座大福」を持って謝罪に訪れると、事務所はもぬけの殻。
地面師だったのだ!


ガッツリ、コント的な演技がハマる

祟りの正直風で嘘が言えない不動産営業という設定で、コミカルなお仕事ドラマの『正直不動産』。ベースのトーンは、不動産豆知識たっぷり教養ドラマであり、暮らしを軸とした人間ドラマでもある。
実は、コミカルな演技をしている人は少ない。
社長(草刈正雄)は、情熱を秘めた貫禄の社長をまっすぐに演じているし、桐山は抑えめトーンのクールなキャラクターだ。
ライバルのミネルヴァ不動産の社長・鵤聖人(高橋克典)、花澤涼子(倉科カナ)も、真剣なスタンス。

その中で、ひとり異色なのが、シソンヌ長谷川忍が演じる大河真澄部長。
ガッツリ、コント的な演技なのだ。
これが、実にうまくハマっている。
天然で明るい役の月下咲良を、福原遥が現実にもコントにも出てきそうなキャラクターとして演じて、コント演技の大河部長をドラマ的世界に接続した。
8話、手土産を買いに行く大河部長と月下が盛り上がりに盛り上がる場面。

「手土産は客の心を変える」
「部長、勉強になりまーす」

とスローモーションで走ったりする。コントのノリになっても違和感がないふたりの演技のおかげで、コントな感覚が自然にドラマの中にハマっているのだ。
だから、山下智久が、祟りの正直風という突飛な状況設定を、コントではなくドラマとして演じても違和感がない。
これが、全員コントでやってるとドラマ的リアリティは喪失するし、全員ドラマとしてやってると状況設定が浮いてしまう。
出演陣の絶妙なバランスの上で、山下智久のまっすぐな演技が観るものを説得した。

『正直不動産』<4巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館
『正直不動産』<4巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館

やり方を変えた永瀬

8話、正直風が、ラストにもう一度吹く。
上司の責任を押しつけられて会社を辞めた過去が社長にはあったことをマダムから聞いた永瀬。
社長は、地面師に騙されかけていたが怪しいと気づく。だが、浮かれた上司が聞く耳を持たずに契約してしまったのだ。
永瀬は、社長に質問する。
地面師だと疑っていたのに自分に任せたのはなぜか、と。
社長は「私もお前を信じた。地面師に騙されたとしても永瀬を信じた私が責任を取ればいいことだ」と答える。
ちょっと照れた社長が「今さらそんなことを聞くなよ」と言ったあと、正直風がゆるく吹く。

「社長。俺この会社入ってよかったです。必ず日本一……いや世界一の不動産屋にしてみます」

ストレートに自分の思いを口にするのは恥ずかしい。
だが、正直風の祟りで、それを言うしかなくなった永瀬は、自分のやり方を変えた。
それがまわりに影響を与えて、環境を変えた。
永瀬はそれを言える自分と環境を築き上げたのだ。
成約するために言わなくていいことを言ってしまう邪悪な祟りだった正直風が、第8話では、言いたくてもなかなか言えないことを言う勇気を与えるポジティブな風に変わっていた。残り2話、変わった永瀬は、ここからどうなっていくのだろうか。

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米光一成

米光一成 (よねみつかずなり)ゲーム作家/ライター/デジタルハリウッド大学教授/日本翻訳大賞運営/東京マッハメンバー。代表作は『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『BAROQUE』『はっけよいとネコ』『記憶交換ノ儀式』等、デジタルゲーム、アナログゲームなど幅広くデザインする。池袋コミュニティ・カレッジ..