山下智久『正直不動産』7話 過去の嘘に苦しむ永瀬財地「我ながら悪どいやり方で売りつけさせていだだきましたから」

2022.5.24
イラスト/たけだあや

文=米光一成 イラスト=たけだあや 編集=アライユキコ


NHKドラマ『正直不動産』(火曜よる10時~全10回予定)。原作は『ビッグコミック』(小学館)連載中の同名コミック。ゲーム作家(『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』など)でライターの米光一成がレビューする(ネタバレを含みます)。


「過去の自分」が襲いかかってくる

山下智久主演の不動産営業を描いたお仕事ドラマ『正直不動産』5月24日(火曜日)NHK総合午後10時から第8話「信じること」が放送だ。

7話は「過去の自分と今の自分」。祟りのせいで正直風に吹かれると、本音をぶちまけてしまう不動産営業の永瀬財地(山下智久)。

徐々に正直に営業するスタイルが確立してきて、考え方も変わってきた。前回、「もう嘘はつかない。営業スタイルを変えた。決めたんだ。顧客一人ひとりに正直営業するって」と言い切った。
ところが、今話は、そんな永瀬に「過去の自分」が襲いかかってくる。

榎本さん(泉里香)を怒らせる

「覚えてるよな、俺のこと」

半年前、3階建ての賃貸併用住宅を買った顧客(阪田マサノブ)がやってくる。

「人のこと騙しやがって!」
「心当たりなんてまったく……」
「ない」と言い切ろうとした永瀬に正直風が吹く。

「……ございます。なにせ松永様にはあの物件のメリットだけを強調し、我ながら悪どいやり方で売りつけさせていだだきましたから」

と、ぶちまけるのだ(「賃貸併用住宅」については原作漫画12巻に登場)。

『正直不動産』<12巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館
『正直不動産』<12巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館

さらにやっかいなことが起きる。自分のことだけじゃなく、ほかの人の営業を邪魔してしまうことになっちゃうケースが勃発。

メインバンクの光友銀行の融資課・榎本(泉里香)さんと一緒に、藤崎夫婦(前田吟・中田喜子)の家を訪れる永瀬。
家を売却する話から、榎本さんは、売却せずにリバースモーゲージタイプのローンをオススメし始める。
自宅を担保に融資を受け、そのまま住みつづけられるローンだ。

永瀬は、当然、メインバンクの顔を立てて、こちらをオススメします、と言うべきところだ。だが、「こちらをオススメ……」で正直風が吹く。

言ってはいけないと、口を押さえて部屋を出る永瀬だが、正直逆風に押し返されて、部屋に戻り「……なんて1ミリもできないんですよ」
これには、榎本さん、
「は?」

永瀬は止まらない。商品のデメリット「長生きリスク」を丁寧に解説してしまう。
にらみつける榎本さん。

そのとき、藤崎夫婦の娘と孫が遊びに来て、庭の砂場で遊び始める。この場面があとの展開のキーになってくる。

「永瀬さんのおかげですべて台なしですよ」

と、当然、めちゃ怒ってる榎本さん。
藤崎夫婦が、悩んでいるのは以下の二択。

1.家を売却 メリットは、5000万円近くの資金が手に入って老後の資金にあてられる。デメリットは、住み慣れた家を出て賃貸物件を借りなければいけない。

2.リバースモーゲージを利用 メリットは、今までと同じ環境で暮らせて自由に使えるお金が手に入る。デメリットは、借金を背負ってしまうこと。

「家を売ることにします」と言う藤崎夫婦に、(正直風が吹いて)「藤崎さん、この家、絶対に売ってはいけません!」と永瀬。

庭の砂場に使っている抗菌砂を見つけ、孫のアレルギーを見抜く。「庭で孫と遊ぶことがお孫さんだけではなく奥様の幸せであって、それを手放さないほうがいい」と語る。

「家を通じて、お客様の人生を豊かにする」まさに正直不動産を体現した。


絶妙な風の吹き具合

7話、正直風の吹き具合が絶妙。メインバンクの顔を立てるべき場面では、風が吹いて堪えて部屋から出てもさらに逆風で部屋に戻される大風だったが、この場面では、さらっと吹く。風が吹いていなかったとしても、永瀬は、同じことを言ったのではないだろうか。

実は、原作4巻の「リバースモーゲージ」のエピソードでは、この場面、風が吹かない。吹かないのに言ってしまうのだ。

正直営業をつづけることで、自分の考えが変わり、目をつけるポイントが変わって、新たな発見をする。おそらく、嘘つき営業スタイルの永瀬だったら、抗菌砂に気づいて、そこからお孫さんがアレルギーであることを推察できなかっただろう。
永瀬が変わってきたからこそ、発見できたことだ。

もちろん大河部長(シソンヌ長谷川忍)に言わせれば、

「ラーメン屋でな、ニンニクマシマシ油多めって注文したお客さんに、それ体に悪いんでさっぱりにしときましたって、それと一緒だな!」で、バカな行為だ。

『正直不動産』<4巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館
『正直不動産』<4巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館

まわりの人が変わることで、環境が変わる

物語は、ここで終わらない。
これをきっかけにして、家族が話し合う。

娘は、母親が後悔してる懸念を払拭し、「自分たちのことを優先して」と願う。孫も、砂場があるからここに来てるのじゃなく「じぃじとばぁばと遊びたいからちてるんだよ」と答える。
そして、「あなたなら信頼できます」と、藤崎夫婦から、新たに賃貸物件を探してほしいという依頼を永瀬は受けるのだ。

これには、大河部長もうなずいて満足するしかない。
全力疾走で知らせてくれた榎本さんも、大河部長も、永瀬の正直営業スタイルに影響されて変わってきている。
まわりの人が変わることで、環境が変わる。環境が変わることで、また永瀬自身も、どんどん変わっていく。

ドラマの前半では居留守を使おうとしていた永瀬本人も、最後には「居留守使います?」と聞かれて、きっぱり「自分がやった過去は変えられない。だったら今できることを正直に誠意をもって伝えるしかないでしょ」と答えるのだ。このとき、正直風は吹いていない。

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米光一成

米光一成 (よねみつかずなり)ゲーム作家/ライター/デジタルハリウッド大学教授/日本翻訳大賞運営/東京マッハメンバー。代表作は『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『BAROQUE』『はっけよいとネコ』『記憶交換ノ儀式』等、デジタルゲーム、アナログゲームなど幅広くデザインする。池袋コミュニティ・カレッジ..

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