松本人志の新作コント2本の凄さを考察『キングオブコントの会』が最高だった!優勝特典に「松ちゃんとコントできる権」を提案


松本が書いたコント「おめでとう」「管理人」

松本人志が民放でテレビコントを披露するのは、2001年の『ダウンタウンのものごっつええ感じスペシャル』(フジテレビ)以来、20年ぶりだという。「民放で」とついているのは、NHKで『松本人志のコントMHK』(2010年)があったからだろう(ちなみに、TBS『史上空前!! 笑いの祭典ザ・ドリームマッチ2009』で、内村光良との即興ユニットでコントを披露したことはある)。

松本が書いたコントは「おめでとう」と「管理人」の2本。「おめでとう」では、松本演じる「松子」が、家に招いた女性3人組(東京03・飯塚、ハナコ秋山、ロッチ・コカド)と共に「おめでとう〜!」と声を上げるところから始まる。女性たちは何がおめでたいのか全然わからないが、松子のペースに巻き込まれて言い出せない。祝福はどんどん緊張の時間に変わっていく。

後半は誰だかわからないサプライズゲスト(ロバート秋山)が登場し、寿司屋(シソンヌじろう)が緑色の寿司を握りに来て、業者(チョコレートプラネット)が謎の機械を稼働させ、謎のシンガー(バナナマン日村)が持ち歌「めでたい」を歌い上げる。それぞれの持ち味がピースとなり、松本人志が作る世界を埋める。15分以上にわたる長尺のラスト、東京03・飯塚の表情が絶品だった。

「管理人」はバイきんぐ小峠とのふたりコント。マンションの管理人(小峠)が、福岡で買っためんたいこを住人(松本)に届けに来る。ドアチェーン越しに対応する住人は、思いもよらぬ土産に喜ぶが、ドアチェーンを外すためにいったんドアを閉めると、さっきまでのやりとりをすっかり忘れてしまう。何度もドアの開け閉めが繰り返され、管理人の戸惑いは苛立ちに変わっていく。

しばらくドア越しのやりとりがつづいたあと、カメラは住人の部屋を映す。住人は机に向かい手紙を書いていた。愛しい人に宛てた手紙を読み上げるモノローグと、回想シーン。やりきれぬ思いをシャワーで洗い流し、部屋に戻ると、管理人がまだドアの隙間から「めんたいこ受け取れ!」と怒鳴りつづけている。正常と異常がドアを境に反転する。

どちらのコントも、松本が演じるのは中年の女性。20年前と比べ松本の体はムキムキになっており、男性を演じるとどうしても「松本人志」という記号を感じてしまうだろう。「おめでとう」でも、松子はゆったりとしたワンピースに身を包んでいる。

だが「管理人」では筋肉を隠さない。ドアチェーンをまたぐ腕はパンパンだし、発達した胸筋を利用して官能的なシャワーシーンまで演じてしまう。アップになった表情はメイクこそしているがヒゲも目立つ。女装はあくまで記号であり、「松本人志が演じる女性」が狂った世界を形作るのを見せてくれるのだ。そうだった。松ちゃんはマー君のおかんで、料理教室の先生で、トカゲのおっさんだった。20年経っても、松本人志は現役のプレイヤーだった。

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松本人志のテレビコントを”伝承”する

松本人志と共演した芸人たちが驚いたのは、そのコントの作り方だった。台本はできているのに、松本本人は台本を読まないという。

東京03・飯塚「台本読みながら練習とか一切なさらないんですよ、松本さんって。流れだけ頭に入ってて、あと現場で作っていく作業なんです」

ロッチ・コカドケンタロウ「一応、読み合わせみたいなの僕らだけでしたんですよね。(飯塚とハナコ秋山と)3人でやったんですけど、松本さんに会った瞬間に『俺、台本見ないから』『ここで作っていくから』って仰って」

飯塚「で、本番、全然違うことやるから! 急にでんぐり返ししたりとか!」

「管理人」で相手役を務めたバイきんぐ小峠も「全部アドリブなんですよ」と振り返る。

小峠「セリフなんかあってないようなもので、何回もドアを閉めるやりとりも別に回数も決めてなくて。適当に、松本さんのそのときのテンションというか、さじ加減でやるみたいなんで……。僕らが今までやってきたコントと全然違うというか。これはやっぱ特殊だなと思いましたね」

かつて『ごっつええ感じ』の演出を務め、『キングオブコントの会』にも演出として携わった小松純也によれば、この作り方は『ごっつ』のころと変わっていないという。

「現場の瞬発力で作る部分と、最初にデザインした構成ビジョンが組み合わさって、『一体このアイデアはどうやって作られたんだ?』というコントになる。だから、1回全部なかったことにすると分かっていても、台本では構造をできるだけ緻密に作っておくということになるんです」(「松本人志20年ぶり民放コントの舞台裏 『ごっつ』以来の演出・小松純也氏が明かす“松本流”手法」マイナビニュース)

台本を見ないからといって、すべてを捨てるわけではない。構造は頭に入れながら、アドリブで流れを作っていく。その勢いのまま本番。テレビコントならではの作り方だろう。

松本の手法は、劇場や舞台を主戦場にしてきた芸人たちには衝撃だったはずだ。振り返れば、今回のコント2本で松本と共演した芸人たちの多くは、ネタを書く側の人間だった。『キングオブコントの会』は、松本人志のテレビコントを”伝承”する場としても機能したのではないか。

タモリを匂わせてもいた「お昼の生放送」

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