わかり合えなくても、私たちは友達になれる。『スキップとローファー』が描く“フラットな目線”
気が合わなそうな人たちや価値観の違う人たちと、フラットな目線で接することができたなら──。マンガ『スキップとローファー』(高松美咲/講談社)に描かれる主人公たちのまっすぐな行動から、私たちもきっと学べることがある。
『クイック・ジャパン』vol.155で作者にインタビューを行ったライター・羽佐田瑶子が、心を閉ざしていた中学時代を回想しながら、この作品から得られる視点をレビューする。
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“慣れない都会の高校生活”
別れと出会いが一緒くたに訪れる季節を迎えるたびに、学生時代のことを思い出す。
楽しかったことも、うまくいかなかったことも、あまりの幼さに乗り越えられなかったことがたくさんあり胸が締めつけられる。そんなとき、『スキップとローファー』の、ナオちゃんの言葉を思い出す。
誰かと本当の友だちになれるチャンスなんてそうそうないのよ
『スキップとローファー』3巻より
学校の教室を経て、会社やママ友などさまざまなキャラクターが存在する独特なコミュニティは、永遠に繰り返される。ジャンル、という想像レベルの垣根を越えて歩み寄ってみたら、私たちにはどんな友情が待っているのだろうか。
『スキップとローファー』は、『月刊アフタヌーン』(講談社)で連載中のスクールコメディだ。作者は『カナリアたちの舟』でデビューした高松美咲。
石川県の能登半島で生まれ育った主人公の岩倉美津未(通称:みつみちゃん)は「T大学法学部から官僚」という出世コースを目指し、過疎地から東京の高偏差値高校への首席入学を機に上京する。居候するのはお父さんの弟である“叔母“のナオちゃんの家。
褒められて育ってきたみつみちゃんは自身を「神童」だと信じ、家族や地元の声援を一手に引き受けて最大限のがんばりを見せる。勉強はできるし努力家だけれど、ちょっと天然。慣れない都会の高校生活に初めはドギマギしつつも、彼女のまっしろでまっすぐなところにクラスメイトたちは自然と巻き込まれていき、想像もしなかった友情を育んでいく。
偶然、入学式に出会ったイケメン男子・志摩聡介(通称:志摩くん)が彼女の和やかさに魅了され、どこかつかめない雰囲気が溶けていく様はなんとも素敵だ。
設定は学園生活の日々を描く日常系だが、そこに描かれる人間関係や感情の機微は大人の社会生活や友人との関係にも重ねられ、突き刺さるものがある。「このマンガがすごい!2020」オトコ編では第7位に、「マンガ大賞2020」では第3位にランクインしたのも納得だ。
「もっとフラットな目線を持ちたかった」
みつみちゃんのクラスメイトには、生まれも育ちもタイプも異なる人々が登場する。周囲をよく観察しちょっぴり腹黒い江頭ミカ、完璧美少女だけれど過去のトラウマに悩む村重結月、ネガティブで陽キャに抵抗があった久留米誠など多様だ。
共通の趣味があるわけでもなく、校内カーストというものが存在するならばジャンルもグループも“バラバラ”で、仲良くなるはずがなかったかもしれない。しかし、彼女たちはみつみちゃんのまっしろな視点に影響されてか、少しずつ“わかり合えない”お互いを尊重し距離を縮めていく。運動のできないみつみちゃんを指導するミカちゃんに小さな自己肯定が生まれたり、ひと目で距離を置かれたゆづちゃんのことを誠が中学時代の親友に懸命に説明したり。
『クイック・ジャパンvol.155』のインタビューで、作者の高松美咲さんはこう答えた。
中高時代の“バラバラ”な感じは、またとない貴重な機会です。第一印象で心のシャッターを閉めてしまったら、相手のことはなにもわからない。とりあえず仲良くなってみることで新しい世界を知れたのかもしれないと思うと、私はなんてもったいなかったんだろうと。もっとフラットな目線を持ちたかったという思いも込めて描いています。
『クイック・ジャパンvol.155』より
できたかもしれない“友達”のこと
私自身も、中学時代は心のシャッターを閉めっぱなしだった。
そこは絵に描いたようなヤンキーばかりの中学校で、学級委員を務めていた私は明らかに浮いていた。クラスメイトたちはろくに勉強もせず、将来よりも“今”楽しいことを優先してばかり。本や映画ばかりを観て、おしゃれに疎かった私は彼女たちとの共通点を見つけられず、心のどこかで線を引いていたのだと思う。舐められまいと距離をとって、当たり障りのないコミュニケーションをとっていた。
思い出のない地元に、たった一度だけ帰ったことがある。公園を通り抜けたとき、小さな子供を抱えた当時のクラスメイトに呼び止められた。彼女とは、2年間クラスが一緒だった。
男女分け隔てなく話し、いつも明るい印象だったが、急に学校に来なくなることがあり彼女が隠し持つ何かを少しだけ気にしていた。しかし会話をしたことはなく、2、3度、先生に言われて授業をサボる彼女たちのグループを探しに行ったときに、たわいもないことをポツリと交わしただけ。だから、名前を覚えてくれていたことにも驚いたし、なんの壁もなく昨日も会ったかのように話しかけてくる彼女の人なつっこさに、なぜだか寂しい気持ちになった。
もし、私もみつみちゃんたちのように、もっとフラットな目線でクラスメイトと話をしていたら、どんな未来が待っていたのだろう。彼女とどんな会話をしたのだろう。大人になって振り返れば、友達にならないかもしれない人に嫌われようが舐められようが、関係なかったはず。
一度は心のシャッターを開けて、相手の目を見て話せていたら、私がずっと欲しかった“友達”ができたのかもしれない。
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