エヴァは、ついに「乳化」した。──『シン・エヴァンゲリオン劇場版』レビュー
日本社会のひとつの分水嶺となった1995年に誕生したアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』。
そのシリーズの完結編となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が、2021年3月8日に日本全国の劇場で公開された。公開日の朝に同作を鑑賞したライター・相田冬二による、レビューをお届けします。
「どのようなピリオドだったのか、言及するつもりはない。それは、あなたが、あなたの五感すべてで受け取ればそれでいい。この最終作は、それぞれの「あなた」を信頼している」
そもそも、鍵はなかった。
四半世紀に及ぶエヴァ史に、ついに終止符が打たれた。
かつてオリジナルタイトルにあった、文字どおりの「新世紀」を世界は迎えている。そして、放映開始時にはまだ昭和の匂いが残る黎明期だった平成も終わり、日本は令和という元号を生きている。
何かが終われば、何かが始まる。それだけのことだ。世界も。日本も。あなたも。私も。始まったら、終わるのだ。終わらないものなどない。だが、すべてが死滅することもない。私たちは、1995年から2021年までをかけて、壮大にして極小の真実を知ることになった。
どのようなピリオドだったのか、言及するつもりはない。それは、あなたが、あなたの五感すべてで受け取ればそれでいい。この最終作は、それぞれの「あなた」を信頼している。心の底から信頼している。私たちは信頼されているのだから、私たちも作品を信頼すればいいのだ。
このシンプルなエネルギーに、何よりも感動させられた。信頼のエネルギー。媚びるわけでも、自閉するわけでも、無闇に驚かせるわけでも、過剰にメッセージするわけでもない。まっさらに、他者を、相手を、「あなた」を信頼するということ。
作り手が観客を支配するわけではない。ここには、支配=被支配の関係はない。開かれている。開放されている。ミクロな好奇心も、マクロな欲望も、受容している。どうぞ、ご自由に。門は、開けっぱなし。鍵はかけない。そもそも、鍵はなかった。だから、これだけ多くの人に愛されている。鍵は、いつだって、私たちの胸の内にあった。そのことに気づかされる。信頼のエネルギーがもたらすのは、謎解きの快感ではない。私たちが、私たちであることの実存の発見。「あなた」は、「あなた」のままでいい。
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