心の中でいつも「わからない」と思われていた私(枡野浩一)
穂村弘の最新対談集『あの人と短歌』(NHK出版)、85ページを読んで戦慄した。
小説家・高原英理との対談の終盤で、穂村さんが言う。《例えば僕は、枡野浩一の活動がずっと気にはなりつつも、どこかで自分にはわからない、と言う感覚が拭えずにいました。》《しかし、斉藤斎藤や永井祐が出てきた時に、枡野さんとは違って、「これはわかるな」と思えた。》……。
※この記事は『クイック・ジャパン』vol.154に掲載のコラムを転載したものです。
わからない永井祐
穂村さんとは七回くらい、対談や座談会でご一緒している。歌人に近づかず生きてきた私の、例外的な最高記録だ。なのに。心の中でいつも「わからない」と思われていた私。
そして穂村さんは、永井祐第二歌集『広い世界と2や8や7』(左右社)の帯文を書いている。
《永井祐の/登場によって/短歌が、/目の前の世界の/見え方が、/変わってしまった。/もうもとには/もどれない。/なんてことを/してくれるんだ!》
この言葉は大げさではない。今、複数の「永井祐チルドレン」が生まれ、活躍している。たとえば第一回笹井宏之賞永井祐賞を受賞した阿波野巧也の第一歌集『ビギナーズラック』は、この賞を主催する版元ではない左右社から刊行された。
歴代の笹井賞大賞受賞者たちの歌集より話題になったという印象が私にはある。「笹井宏之賞永井祐賞」って。大賞より豪華そうじゃないか。
たのしく読める歌集だったが、永井祐の専売特許だと勝手に思いこんでいた「算用数字の変な表記」「一字アキよりも空白をあける表記」などが阿波野作品にも踏襲されていたことはショックだった。
だったら永井祐歌集をかっこいい装幀で本にしたらいいのに左右社は。という私の心の叫びが伝わったのだろう。『広い世界〜』の表紙は銀の箔押しが虹色に輝く美しさだ。私が『短歌研究』2020年6月号の永井祐特集で書いたように、第一歌集『日本の中でたのしく暮らす』には語られやすい「大ヒット短歌」が多く、キャッチーだった。
《あの青い電車にもしもぶつかればはね飛ばされたりするんだろうな》というような、ツッコミ待ちのお笑いのボケに見えてくる短歌すらあった。
第二歌集はどうだろう。私はポストイットを大量に貼りながら読んだけれど、これ、QJ読者にもたのしいかな?
《セロテープカッター付きのやつを買う 生きてることで盛り上がりたい (永井祐)》なんという盛り上がりの無さ! でも、そこが癖になる。 永井祐の短歌の魅力は「人柄」だと仁尾智は言った(#枡野と短歌の話 2)。同感だ。それ以上、私にはわからない。
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