2020年12月18日、第164回芥川賞・直木賞候補作発表、NEWS加藤シゲアキの『オルタネート』が直木賞候補となり、話題になっている(選考会は2021年1月20日)。デビュー作から注目してきた書評家・杉江松恋が断言する作家・加藤シゲアキの真価。
目次
停滞した時期が少しもない作家
加藤シゲアキは応援しがいのある作家だ。
最新作『オルタネート』(新潮社)が第164回直木賞にノミネートされたからそう言うわけではない。文学賞の候補になるのは名誉なことだし、そうしたかたちで作品が評価されるのは大変に喜ばしい。だが、2012年の作家デビューからこんにちに至るまで、こつこつと新作を発表しつづけ、停滞した時期が少しもないという事実のほうが、ファンにとってはもっとうれしいはずだ。専業作家ではないのに、その熱意には頭が下がる。
小説からは、加藤が楽しんで執筆をつづけていることが伝わってくる。書き手としての挑戦課題が各作品で明確に設定されており、それをこなしながら少しずつ技量が上がっているのがわかる。だからこそ読み手は応援したい気持ちになるのである。
![加藤シゲアキ表紙『AERA 2020年 3/9号』朝日新聞出版](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2020/12/81VYETjyREL.jpg)
ファンの多くは、『オルタネート』を最も身近な小説として受け止めたのではないかと思う。本作の舞台となるのは、東京都内にあると思われる円明学園高校だ。そこに通っているのは、今しかできない恋愛や、スマートフォンに入れたアプリのほうが進路なんかよりも気になる、つまりはごく普通の高校生である。それぞれに秀でた部分があったり、他人とは共有するのが難しいこだわりを抱えていたりもするが、みな10代なりの身の丈で、飛び抜けて変わっている者はいない。等身大の少年少女が現在を生きるさまを描く。それこそが、加藤が『オルタネート』で目指したことなのである。かなりの数の読者が、登場人物の誰かに自分自身の姿を重ね合わせたはずだ。
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