アダム・ドライバーという時代――『デッド・ドント・ダイ』で表出した稀有な資質
緊急事態宣言が解除された今、いよいよ映画館でも新作が封切られ始めている。6月5日公開作の中で注目すべきは、あのジム・ジャームッシュ監督が撮ったゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』だ。
主演ビル・マーレイもよいけれど、刮目したいのがジャームッシュとは『パターソン』でも組んだアダム・ドライバーである。スター・ウォーズ最終3部作でも好演を見せ、時代の寵児とも言える彼の魅力とは――。
合衆国が誇る名立たる映画作家群を総なめ
ジム・ジャームッシュ監督が彼ならではのアプローチで創り上げたユニーク極まりないゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』。アダム・ドライバーはここで主演ビル・マーレイの相棒役を務め、小さな田舎町で起きたゾンビ珍事件に対処する警官を独特の無表情のまま体現している。何が起きても動じない。という意味では、マーレイも相当な無表情ぶりなのだが、ドライバーの相貌は、かの喜劇王バスター・キートンがそう形容されたように「デッドパン(死んだ顔)」と呼ぶべき次元へと到達している。
「死者は死なない」と題された映画で、「生きている死者」たちを相手にする警官が、その「死者」たち以上に「死んだ顔」をしているーーこの究極の皮肉はジャームッシュが仕かけた演出というよりは、アダム・ドライバーという時代の寵児にもともと備わっている稀有な資質が表出した結果だろう。
世界人口的には『フォースの覚醒』『最後のジェダイ』『スカイウォーカーの夜明け』のスター・ウォーズ最終3部作で悪役カイロ・レンを演じたことで記憶されているのかもしれないこの俳優は、その他のフィルモグラフィこそが壮観だ。
キャリアのすごさは、組んだ監督名を列挙するだけでよくわかる。ノア・バームバック(3本)、ジャームッシュ(2本)、マーティン・スコセッシ、スティーブン・ソダーバーグ、テリー・ギリアム、スパイク・リー。ここに初期の端役とはいえコーエン兄弟をプラスすれば、ほとんど合衆国が誇る映画作家群を総なめしつつある、と言って過言ではない。
とりわけ重要なのは、スコセッシの『沈黙-サイレンス-』とギリアムの『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』はいずれも監督の永年の夢がついに実現した念願作であるということ。さらにソダーバーグの『ローガン・ラッキー』は引退宣言後の沈黙の果ての帰還作であったこと。『ブラック・クランズマン』はスパイク・リーの気概が完全復活した力作(ドライバーもオスカーにノミネートされた)だったことだ。念願、帰還、復活。つまり、ここぞというとき、頼りにされる男がアダム・ドライバーというわけだ。
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