鉄矢、名シーンでセリフを噛む
日本ドラマ史屈指の名シーンとなっているこの演出は、のちに『男女7人』シリーズ(86〜87年)、木村拓哉の『ビューティフルライフ』(00年)や、佐野史郎がヤバイ『ずっとあなたが好きだった』(92年)、『誰にも言えない』(92年)(すべてTBS)などなど人気作を多数手がける演出家・生野慈朗が、プロデューサーや脚本家に相談せずに独断で行ったものだという。
おそらく、アメリカの学園紛争をテーマにした映画『いちご白書』のエンディングをモチーフにしたものだろう。
講堂に立てこもった学生たちに対し、大学側からの要請に応じた武装警察隊が突入し、催涙ガスを撒いて、学生たちを警棒でボッコボコにして連行(アメリカはスゲエなぁ)。
ラスト、無音&スローモーションになり、バフィー・セント・メリーの歌う主題歌『サークル・ゲーム』が流れる。……モロに『金八』のあのシーンだ。
「世情」の「シュプレヒコールの波」という歌詞や、『いちご白書』オマージュなど、「卒業式前の暴力」一連のエピソードが学生運動をモチーフにしているのは容易に想像がつく。
それゆえに、“敗北の美学”的なものが大好きな日本人の心にグッと迫ってくるのだろう。
ただ、学生運動モチーフにしてしまったがゆえに、不良たちの大暴れに「反抗する側にも理由がある」的な免罪符を与えてしまっている感があって、若干モヤッとするのだが。
制作陣が想定していたのかいなかったのか、放送当時、加藤優絡みのエピソードはリアル・暴走族の連中からもメチャクチャ支持されていたようで、暴走族が頻繁にロケ現場を見学しに来ていたという。
そういう人たちが、カッコイイ不良像を作り上げた加藤優に憧れる気持ちはすごくわかるけど、加藤のように“理由があって”グレているケースは希少で、ただ単にアホでグレている連中のほうが多いと思うんだけどな……。
警察から解放されたふたりを金八がビンタするもうひとつの号泣シーンは、加藤・松浦が不良たちのヒーローに祭り上げられることを危惧した武田鉄矢によるアドリブだったという。
加藤のせいで存在感が薄くなっていた鉄矢の「オレが主役じゃー!」というマウンティング行動じゃないぞ。……たぶん。
憔悴し切ったふたりにビンタを食らわせ、すかさずガッシと抱きしめるサイコーのシーンなのだが、アドリブのビンタに力が入り過ぎたのか、鉄矢はこのあとのセリフを思いっきり噛んでいる。
「貴様たちはオレたちのせ……もにょもにょ……オレの生徒だ、忘れるなよ!(恥ずかしかったのか、だんだん声が小さくなっていく)」
『金八』では教室の臨場感を優先して、多少のセリフ間違いはそのまま採用されているケースが少なくないが、さすがにここはリテイクしてあげてほしかった
……。とはいえ、リテイクしていたらこのシーンの異様な緊迫感は出なかっただろう。
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