『岡村隆史のオールナイトニッポン』に期待する深夜ラジオの新しいかたち

文=村上謙三久 編集=森田真規


2020年4月23日深夜に放送された『ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン』での発言が波紋を呼び、翌週の放送での相方・矢部浩之による“公開説教”も大きく報じられるなど、コロナ禍における深夜ラジオの一大ニュースとなった岡村隆史による“不適切発言”。

この発言が生まれた経緯をきちんと考えるには、今一度“深夜ラジオ”というメディアの歴史を振り返ることが有効なはずだ。『深夜のラジオっ子』の著者であり、『お笑いラジオの時間』シリーズの編集長を務める村上謙三久が、50年を超える深夜ラジオの歴史と時代によって変化してきたリスナーとの関係性に迫る――。


50年を超す深夜ラジオの歴史を、今改めて掘り下げる

自粛期間にやることがなく、パソコン内のデータを整理していると、3年前に書いた「『岡村隆史のオールナイトニッポン』を一番楽しめるのは中年独身男性である。」というコラムの原稿を見つけた。『CULTURE Bros. vol.6』(東京ニュース通信社)に寄稿したものだ。

「番組が醸し出すオッサンの哀愁や寂しさ、“苦笑”に近い笑いは、やはり中年が一番ハマると思う」「語弊を気にせず言うならば、ラジオで語られる岡村の話は、愛すべきオッサンの“ただの独り言”である」などと好き勝手に書き、最後は「いつか結婚して幸せになるにせよ、このまま独身生活をつづけるにせよ、彼の日常をずっとラジオで聴いていたい」と結んでいた。いやはや、私はこの番組に救われてきた中年独身男なんだなと改めて実感する。

このコラムのタイトルにある「中年が深夜ラジオを楽しむ」という現象は、深夜ラジオの歴史において特異な状況だ。今のかたち=深夜ラジオのあるべき姿だと考えているリスナーもいるようだが、50年を超すその歴史にはさまざまな紆余曲折があった。改めてそれを掘り下げてみたい。このコラムのタイトルにある「中年が深夜ラジオを楽しむ」という現象は、深夜ラジオの歴史において特異な状況だ。今のかたち=深夜ラジオのあるべき姿だと考えているリスナーもいるようだが、50年を超すその歴史にはさまざまな紆余曲折があった。改めてそれを掘り下げてみたい。

若者向けのメインカルチャーとして「クラスのみんなが聴くもの」だった

深夜ラジオの歴史がスタートしたのは1960年代から。その前はドライバーなどを対象にしたお色気番組や音楽番組が散発的に放送されていたという。テレビの普及によって、メディアの中心から外れたラジオ業界は、「一家に1台」から「ひとりに1台」になった状況を受け、漠然とした万人向けから具体的な個人向けの番組作りにシフトする。ここで深夜帯は「若者向け」という考え方が定着した。67年に『パックインミュージック』(TBSラジオ)、『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)、69年に『セイ!ヤング』(文化放送)がスタート。地方局でも深夜ラジオ枠が立ち上げられた。

当時、深夜のテレビ放送は早い時間で終わり、24時間営業のコンビニやファミレスはなく、携帯電話やインターネットもない。若者に選択肢はなく、真夜中にすることといえばラジオを聴くしかなかった。深夜ラジオは若者向けのメインカルチャーとして「クラスのみんなが聴くもの」になる。「学年にひとり、学校でひとりしか聴いていない」という現在と比べると、深夜ラジオの意味合いはまったく違う。若者向けゆえに、リスナーは新陳代謝するのが前提。放送期間が10年を超すような長寿番組は少なく、パーソナリティは数年ごとに入れ替わっていた。

黎明期のパーソナリティはアナウンサー中心。『パックインミュージック』は映画監督&推理小説家、ジャズピアニスト&結婚式のプロデューサー、コメディアン&音楽雑誌の編集者など文化人同士の組み合わせだった。その後、各局で少しずつタレントの起用も増えていくと、テレビにはまったく出演しないフォークシンガーもパーソナリティを務めるようになり、深夜ラジオは“流行の発信地”となった。

このころ、深夜ラジオは“社会性”も持っていた。まだ学生運動が活発で、今につながるネタコーナーがある一方、社会問題を討論する場にもなった。『パックインミュージック』に届いた投稿は書籍にまとめられているが、それを読むと、10代特有の人間関係や恋愛、性に関する悩みのほか、戦争問題や領土問題、さらには「女の幸福とは?」というジェンダーに関する話題まで見つけることができる。番組終了に抗議するために、署名活動やデモ行進が行われた例があるのも興味深い。

また、ニッポン放送のプロデューサーだった上野修の著書『ミスター・ラジオが通る』(実業之日本社)によると、夜帯の番組では「毎回、日活映画のポルノ女優が1名ゲスト出演、2人ともスッポンポンのまるハダカになり、あらぬところまでまさぐりあって、それをアナウンサーが実況中継するという画期的なコーナー」があったそうだ。これらの内容からも当時のラジオが持っていたパワーと幅の広さ、現在との規制の違いがよくわかる。若者たちにとっては硬軟織り交ぜた、まさに“深夜の解放区”だった。

90年代、“流行の発信地”からリスナーとの“秘密基地”へ


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村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。

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