『岡村隆史のオールナイトニッポン』に期待する深夜ラジオの新しいかたち



90年代、“流行の発信地”からリスナーとの“秘密基地”へ

その後、深夜ラジオから社会性は薄まり、タレント中心のバラエティ番組になるが、『オールナイトニッポン』は脈々と歴史を重ねていく。一方、今の安定した『JUNK』のリスナーには信じられないかもしれないが、TBSラジオは何度も番組名やコンセプトが変わる迷走期に突入し、それは伊集院光の“移籍”までつづいた。文化放送は一時期、『大学受験ラジオ講座』を放送。この時間帯での生放送の歴史は何度か途切れている。

『オールナイトニッポン』の歴史を紐解くと、さまざまな事件が起きている。パーソナリティだった吉田拓郎が高熱のために休んだ際には、スタッフが悪ノリし、急死したことにして追悼番組を放送。マスコミが駆けつけて新聞沙汰になった。ビートたけしは初回の放送で電話による人生相談コーナーを行ったが、そこに当時発生した金属バット殺人事件の犯人に「先を越された」と話すリスナーが出演。のちに構成作家による仕込みであることが明らかとなったが、苦情が殺到した。また、たけしの浮気相手をスタジオに招いて生放送でしゃべらせたこともある。今の感覚からすると、これらの放送は明らかに一線を越えているが、もちろん当時は番組降板などの問題までには発展していない。

90年代になっても、深夜ラジオは“若者向け”というスタンスは崩していなかったが、学生が深夜帯にできる選択肢が増えたこともあって、「クラスのみんなが聴いている」状況ではなくなり、“流行の発信地”から番組とリスナーの“秘密基地”のような存在に変わっていく。そんな時期に、今につづくナインティナインや伊集院光、爆笑問題の番組はスタートしている。

構成作家へのインタビューをもとに90年代の深夜ラジオを掘り下げた『深夜のラジオっ子』

70~80年代に比べれば過激な内容は減っていたが、あるお笑い芸人による『オールナイトニッポン』のネタコーナー本を読んでみると、芸能人の身体的特徴や外見、彼らが起こした事件を過剰なほど揶揄しており、今でも笑える反面、「ちょっとやり過ぎだなあ」と引いてしまう要素も多い。これは『オールナイトニッポン』ではないが、男性リスナーと女性リスナーをマッチングさせるという今ではあり得ないコーナーもあった。「女性リスナーと電話をつないで性体験談を聞く」「AV女優をゲストに呼んで、あえぎ声に近いセリフを言わせる」というような直接的な下ネタも今より多かった。インターネットがない時代の男性リスナーにとっては貴重な放送で、私も当時は必死に録音していた記憶がある。

深夜ラジオから「若者向け」というニュアンスが薄れたのは、2000年代からだろう。2008年まで放送されていた『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』では「学校に行ったら友だち3人に勧めろよ」というジングルがあるが、今ならば違和感を覚える。2003年から深夜3時からのいわゆるオールナイトニッポン2部はしばらく中高年を主な対象とした収録枠になった。これも象徴的な出来事かもしれない。深夜ラジオは「なんでもあり」だと思われがちだが、時代によってその線引きやあり方は微妙に、しかし確実に変化している。

「中年が中年に向けて放送」変化した下ネタの意味合い

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村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。

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