“パンデミック収束後”の世界を描く感染系ゾンビ映画!“アフターコロナ”の必見作

2020.3.20


社会派の視点を持つ最新作『CURED キュアード』が追求した“恐怖の根源”とは?

そして、感染系ゾンビ映画の最新作『CURED キュアード』が3月20日に封切られる。当然ながら、このご時世に公開されるのはまったくの偶然であり、配給会社のキノフィルムズはコロナウイルスのコの字も聞かれない昨年のうちから本作の配給を準備してきた。不謹慎と受け止められかねない内容ならば公開延期もありえたかもしれないが、実はこのアイルランドとフランスの合作は社会派ゾンビ映画と言っても差し支えないほどシリアスな内容なのである。

『CURED キュアード』予告編

舞台となるのは、『28週後…』と同じようにパンデミック収束後のアイルランド。画期的な治療法によってウイルス感染者のうち75%は回復者と認定され、社会復帰の時を迎えようとしている。ところがバスに乗って収容所を出た回復者たちが目の当たりにしたのは、「お前らは人間じゃねえ!」と罵声を浴びせる反対派の大規模デモ。やがて周囲から蔑まれ、孤立した回復者たちは武闘派の同盟を結成し、自分たちの権利を求めて強硬手段に打って出るという物語だ。

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義弟の回復者を持つジャーナリストに扮するのは『JUNO/ジュノ』のエレン・ペイジ
(c)Tilted Pictures Limited 2017

この映画が描くのは、ずばり人間の差別と不寛容だ。未知のウイルスも怖いが、常識や良心を失い、怒りと憎悪に駆られてヘイトクライムやテロに走る人間はなおさら怖い。回復者である主人公の青年セナンは観客の目線を担うキャラクターであり、心優しい彼自身は暴力を好まない。しかしウイルスに理性を狂わされていたころに犯した“罪”のフラッシュバック、すなわちPTSDに苛まれている彼もまた居場所を失いかけていく。これが長編デビュー作となったデヴィッド・フレイン監督の脚本が秀逸だ。

現実の新型コロナウイルスをめぐっても、世界中でアジア人差別などの理不尽な事象が巻き起こっている。むろん本作にはスリルを生み出すための極端な描写もあるが、それがホラー映画というものだ。作り手は現実に起こり得るかもしれない出来事を想像力を膨らませて誇張し、もしくは荒唐無稽に思える出来事に生々しい迫真性を込めて観る者に突きつけてくる。少なくとも、真の恐怖の根源は人間の内側にある、という一点を掘り下げた『CURED キュアード』の視点は決して絵空事ではない。

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“パンデミック収束後”の世界に待ち受けているのは悪夢のような現実なのか
(c)Tilted Pictures Limited 2017

聞くところによれば、ウイルス・パンデミックのプロセスを映画史上最も事細かに映像化した作品のひとつであるスティーブン・ソダーバーグ監督作品『コンテイジョン』(2011年)が、このところ動画配信サイトで人気を博しているという。描かれる内容がいかに恐ろしくとも、劇場の客席やお茶の間といった安全地帯に身を置いて楽しめるのが映画である。

この記事の冒頭で「パンデミック後の世界はどうなっているのか。その答えは誰にもわからない」と書いたが、奇しくもフレイン監督が数年前に構想した『CURED キュアード』はその問いに独自の答えを提示する作品となった。興味を引かれた人は、ホラー映画的イマジネーションと社会への警鐘が混じり合った本作をぜひご覧あれ。


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映画『CURED キュアード』

2020年3月20日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
原題:THE CURED
監督・脚本:デヴィッド・フレイン
出演:エレン・ペイジ、サム・キーリー、トム・ヴォーン=ローラー
配給:キノフィルムズ


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ライター_高橋諭治

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高橋諭治

(たかはし・ゆじ)純真な少年時代に恐怖映画を見過ぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞、映画.com、ぴあアプリ、劇場パンフレットなどに映画評を執筆中。日本大学芸術学部映画学科で非常勤講師もやってます。