最新のニュースから現代のアイドル事情を紐解く。振付師・竹中夏海氏がアイドル時事を分析する本連載。
今回は「ボーイズグループ戦国時代」を切り口に、TikTokで注目を集めたとある新人グループを紹介し、彼らがバズった理由を考える。
目次
ジャニーズから韓流、BE:FIRSTまで。勢いを増す「ボーイズグループ戦国時代」
2010年代、「(女性)アイドル戦国時代」と呼ばれた瞬間が確かにあった。そこから約10年、今度は「ボーイズグループ戦国時代」なんて言葉が浸透しつつある。
男性アイドルシーンの第一線を走りつづけてきたジャニーズ勢に加え、依然として人気の高い韓流グループ、LDH系、そして近年はオーディション番組出身グループ(JO1、INI、BE:FIRSTなど)の存在感が日に日に増しつつある。全国各地で活動するご当地グループも息の長い活動をつづけているところが多い。
だからといって女性アイドル界が下火というわけでもない。男性グループ同様にオーディション番組から続々とデビューするメンバーが決まり、いずれも人気を集めているし、日本特有の女性アイドルシーンも“ブーム”から“文化”へと根づき始めている。
TikTokで話題!“男らしさ”に捉われない新人グループ
そんななか、今ある新しいユニットが注目を集めている。7人組の男性版清純派グループ・THE SUPER FRUIT(通称:スパフル)だ。
8月31日に発売されたデビューシングル「チグハグ」がTikTokソング・チャート「TikTok Weekly Top 20」で現在6週連続1位という快挙を成し遂げているのだ。
この夏、TikTokを開けば必ず一度は耳にした「チグハグ」の勢いは止まるところを知らない。メンバー本人たちもSNS上で「チグハグの◯◯(メンバーカラー)です」と名乗るぐらい、グループ名よりもまず曲タイトルが浸透している状況だ。
ただ、なぜこのデビュー曲がこれだけ注目を集めたのか紐解いていくと、けっしてTikTokに起こりがちな“楽曲のひとり歩き”バズではないことがわかってきたのである。
THE SUPER FRUITは2021年10月1日に結成されたばかりで、活動歴がまだ1年にも満たない新人グループ。2021年末までの3カ月間は「プレ始動期間」としてライブ活動を中心に行ってきた。
実は私もその間に「君はリアコ製造機」という楽曲の振り付けを担当している。そのときに指導した7人のメンバーの印象が鮮烈だった。
とにかく、仲がいいのだ。当たり前に手をつなぐし、腕を組むし、抱きついたりと、カジュアルにイチャイチャしている。「え? ずっとメイキング回ってる?」と思わずあたりを見渡すが、別にどこにもカメラはない。つまりファンへのサービスでも過剰演出でもなく、本当にただメンバー同士のスキンシップが普段から当たり前に行われているのだ。
振り入れ中も、私が「ここはこう踊るんだよ」とひとりのメンバーに指導すると、ほかのメンバーが「そうそう、こうだよ」と参加してきて、いつの間にかキャッキャしている。私は内心(お前ら、仲いいな……)と感心しながら一歩引き、見守ることが多かった。
アイドルに限らず女の子同士でのこうした光景は見慣れていたが、男の子だけのコミュニティでここまで如実に変化を感じたのは初めてだったので衝撃的だった。少なくとも2000年代、私のまわりの男子たちは、プロレスごっこはしても手はつないでいなかったし、ディズニーランドすら「男同士ふたりで行くのには抵抗がある」と言って6人くらいでつるんで繰り出していた。
スパフルのメンバーを見ていると「ホモソノリ(異性愛の下ネタを強要するなど)」や「有害な男らしさ(男はこうあるべき、といった規範を設定し押しつける)」とは無縁の、開放的で風通しのいい軽やかな世界を生きているようで、「未来は明るいのかもしれない」と楽観的にすらなれた。
「チグハグ」がTikTokでバズった本当の理由
そんな7人がプレ期間を経て、今年ついに出したデビュー曲が「チグハグ」だ。彼らは曲の中でこう歌っている。
あのねあのね 気が付いたんだ 人はなぜか揃えたがる 男らしく 女らしく そんな偏見いらないのに
THE SUPER FRUIT「チグハグ」より
いいアイドル楽曲とは、歌詞がまるでメンバー本人たちから出た言葉のよう、というのがひとつの条件だと思う。
そういう意味でもスパフルのようなパーソナリティを持つグループが「チグハグ」でデビューしたことは偶然の産物とはとても思えず、つばさ男子プロダクション(つばさレコーズの男子部門でTHE SUPER FRUITと世が世なら!!!が所属している)のチーフマネージャーでありA&Rを務める堀切裕真氏に話を伺った。
──「チグハグ」の歌詞のテーマはどのように決まったのでしょうか?
堀切裕真(以下:堀切) そもそもメンバーが中性的といいますか、楽屋からライブ会場まで腕を組みキャッキャしながら歩いている姿などを見て、そこにヒントがあると感じていました。衣装をセーラー服にしたり、キャッチフレーズを“男性版清純派グループ”にしたりして、そういったコンセプトを作家のサトダユーリさん(「チグハグ」の作詞・作曲を担当)にお伝えしました。
あとは「TikTokヒットを狙っているので、とにかく耳に残るフレーズで」とお願いして(笑)。そうしてサトダさんから歌詞の土台となる部分をいただき、最終的に「チグハグ」ができ上がりました。歌詞に関しては6往復くらいキャッチボールさせてもらって今のかたちに至っています。
──TikTok上では「#それでは聞いて下さいチグハグ」のハッシュタグやフレーズが流行っていますが、これは事務所主導で仕かけたものですか?
堀切 エピソードや自虐ネタを言ってからの「それでは聞いてください、チグハグ」というテンプレは、まったく狙っていなかったバズです!
そもそもの発端でいうと、「チグハグ」がTikTokで配信される8月3日より前に、ファンの方が上げてくれていたメンバーの推し動画がプチバズリしていたんですね。
レモンカラー担当の星野晴海が「窮屈な世の中ですが、“君は君のまま、僕は僕のまま、自然のままでいいんだよ“という気持ちをユニークに歌った曲です。それでは聞いてください、チグハグ」といった曲振りまで入れてくれたライブ動画の再生回数が回っていて、それを見た人たちがもじってやってくれたんだと思います。
なので、配信されたころにはかなりの数のユーザーが「あ、この曲知ってる〜」と思ってくれて、より浸透していったのではないかと俯瞰では分析しています。
彼らが持つ「いつ世の中に見つかってもおかしくない土壌」
「チグハグ」がこれだけヒットした理由は、印象的なフレーズやメロディの力が確かに大きい。
ただしそれはあくまでひとつのきっかけで、もともとメンバーの持つ自然体でフレッシュかつ柔和な魅力が“推しカメラ”というかたちで広がり、いつ世の中に“見つかっても”おかしくない土壌はすでにでき上がっていたのだ。
逆に楽曲から入った人でも、やがてスパフルに辿り着き「え、『チグハグ』歌ってる人たちってこんなにいいんだ」と思わず推してしまう現象が相次いでいる。
振付ユニット・CRE8BOY(クリエイトボーイ)が手がけるダンスが終始素晴らしいので、サビ以外にも注目だ。
「チグハグ」がヒットしたもうひとつのきっかけ
「チグハグ」ヒットの背景にはもうひとりキーパーソンがいるのでは?と考えていたところ、なんと先日その張本人とたまたま街で出くわすという奇跡が起きた。
スパフルの先輩グループに当たるCUBERS(キューバーズ)のメンバーであり、SNS総フォロワー数90万のインフルエンサー・末吉9太郎である。
こんなチャンスはそうそうないので話を聞いてみた。
──「それでは聞いてください、チグハグ」のフレーズってかなり早い段階で9太郎くんが発信してたと思うんだけど、あれがきっかけで浸透したのかな?
末吉9太郎(以下:9太郎) とんでもないですよ! 僕もほかの人がやってるのを見てやっただけなので。
あれはフレーズ以外にも先に推しカメラが話題になってたり、自然発生的に自虐ネタからの「チグハグ」って流れができたりと、多角的にバズが起きたので、けっこう最強のパターンですよね。それに僕が計画的にバズを起こせるなら、まずCUBERSを流行らせると思います(笑)。
──8月末にゆましん(スパフルの小田惟真と世が世なら!!!の橋爪優真コンビの総称)の動画でツイッターが一部ザワついてたけど、優くん(CUBERS)と9太郎くんでカバー(?)してたり、後輩の扱いがうまいよね。
9太郎 ゆましんのふたりやばいですよね、付き合ってんじゃないの(笑)。かあわあいいー!
ファンの心を掴む、メンバー同士の仲のよさ
9太郎くんが思わず渋谷で絶叫するほど、“つば男”にはまだ隠し玉がいる。スパフルと同時期に結成された6人組・世が世なら!!!だ。
もともとデビュー保留組だった4人に「いい子をふたりスカウトしてくる」と事務所が条件を出し、見事それをクリアしてデビューに漕ぎつけた“下剋上系”グループなのだ。
ただ、スパフルをバチバチにライバル視するかと思いきや、グループの垣根を越えてメンバー同士の仲が相当にいいところが現代的でおもしろい。両グループが関西遠征の際、ホテルの部屋割りをツイートするなど、運営サイドもファン心理を非常に心得ている。
世が世なら!!!については、チーフマネージャーの堀切氏も「どこかでスパフルより爆発的なヒットを生むとかなり期待しています!」と太鼓判を押す。
「アイドル戦国時代」との決定的な違い
10年前、アイドル戦国時代と呼ばれたあのころはまだ、アイドル同士の仲がいいと「プロ意識が足りない」と運営から叱責され、手を取り合うことが許されないケースが多々あった。
そのムードを覆し、絆は強みにも魅力にもなると証明してきたのは、先人のアイドルたちと、「仲よし尊い」と声をそろえてくれたアイドルファンなのだ。時代は確実に変わりつつある。
「ボーイズグループ戦国時代」はきっと、“戦わずして”天下を取る姿勢が象徴的なものになるのではないだろうか。
【関連】昨年デビューの7人組グループが1位を獲得!ボーイズグループランキング
【関連】“次世代No.1ボーイズグループ”最有力、Stray Kidsの魅力とは?
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR