池脇千鶴『その女、ジルバ』は傑作と言い切っていい。声にならない声もリアル「ヒェッ」
「そんな心配するようなお店じゃないですから。あ、そうだ! 1回みんなで遊びに来ませんか? 楽しいし、元気も出るし、お姉さま方も素敵だし」
力作がそろう1月クールの地上波ドラマの中で、ある意味、最も大きな話題を呼んでいるのが池脇千鶴主演のドラマ『その女、ジルバ』だ。
放送されているのは毎週土曜夜11時40分からの東海テレビ制作「オトナの土ドラ」枠(フジテレビ系)。これまでも『隕石家族』や『恐怖新聞』などウェルメイドでありつつコクの深い作品を送り出してきたが、『その女、ジルバ』は冒頭のセリフのとおり、楽しいし、元気も出るし、お姉さま方も素敵で、それでいて実にコクの深い傑作だ(放送はまだ約半分残っているが、傑作と言い切っていいと思う)。
池脇千鶴が演じるのは、40歳の独身女性・笛吹新。結婚直前に婚約者に逃げられた上、会社では「姥捨て山」と呼ばれる倉庫に左遷され、夢も希望も貯金もない状態。人生を諦めかけていた新だったが、偶然知ったホステスの平均年齢70歳オーバーの超高齢熟女バー「OLD JACK&ROSE」で働き始めることによって、自分の人生に輝きを取り戻していく……というお話。原作は第23回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した有間しのぶによる同名のコミック。
写真の中でも演技する池脇千鶴
このドラマには3つの驚きがある。まずは主演の池脇千鶴。すでにあちこちで話題になっているが、第1話の最初に登場したときのインパクトがすごかった。腫れぼったい目、たるんだ頬、ボサボサの髪、所在なさげに丸まった背中……。どこからどう見ても人生の希望を失いかけている中年女性のリアルな姿そのものだったからだ。「ヒェッ」という声にならない声もリアル。
もちろんこれは「劣化」なんかじゃなくて、彼女の真摯な役作りの賜物。清純派女優としてデビューしたころの印象が強いが、ここ数年は映画を中心に着実にキャリアを積み重ねてきた。『そこのみにて光り輝く』(14年)ではバーで売春して生活費を稼ぐ女性を演じて日本アカデミー賞優秀主演女優賞などを獲得。同じく呉美保監督の『きみはいい子』(15年)では母親役を演じるために限界まで太ったというエピソードを持つ。ドラマ『ごめん、愛してる』(TBS/17年)では、7歳程度の知能しか持たないシングルマザーという難役を演じてみせた。
40歳の誕生日を物憂げに過ごす主人公の姿にリアリティがあるからこそ、彼女の「私は私の人生を嫌いになっちゃう」という心の叫びが痛切に響くし、超高齢熟女バーの仲間たちから誕生日を祝われて流す涙が胸に迫ってくる。メイクアップしてドレスを着ればきれいになるけど、美人女優の姿になるわけじゃない。笛吹新はどこにでもいる40歳の女性で、だからこそ人生につまずきかけていたり、社会の閉塞感に押しつぶされそうになっている視聴者からの共感を集めるのだろう。
池脇千鶴が二役を演じる店の初代オーナー、ジルバの写真も圧巻だ。知らずに見たら二役だと気づかないほど、ジルバという女性が持っていたおおらかさ、快活さ、たくましさが見事に表現されている。つまり、写真の中での演技が素晴らしいのである。
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