シスターフッドが丹念に描かれる
2番目の驚きは、物語の豊かさそのものにある。ここまで、40代シングル女性の将来への不安に始まり(これは男性にも同じようにある)、「OLD JACK&ROSE」に集う人々が築き上げた疑似家族的なコミュニティと、物流倉庫で働く同僚たちとのシスターフッドが丹念に描かれてきた。
くじらママ(奇跡の87歳・草笛光子)は「家族」と言って詐欺師からエリー(中田喜子)を守ったし、初代オーナーのジルバは母として捨て子だったナマコ(久本雅美)を育て上げ、嫁にまで出した。マスター(原作そっくりの品川徹)は娘を見守る父親のように新と接する。孤独に苛まれる人にとって、「おかえり」と言って温かく迎えてくれる場所ほどありがたいものはない。この店は常連客たちの家族とも付き合いがある。
新が働く物流倉庫も、温かなお店と対象的に冷たい存在として描かれると思いきや、新と同じくデパートからの出向組の村木みか(真飛聖)と、口は悪いが実は仲間思いのチームリーダー・浜田スミレ(江口のりこ)との3人の友情には何度も胸を熱くさせられた。
都会で暮らす人たちの孤独を疑似家族的なコミュニティが癒すという主題は、これまでも数多くのドラマで描かれてきた。『その女、ジルバ』のユニークな点は、それが主に高齢女性たちによって構成されているところだ。彼女たちは口々に言う。
「40なんてまだまだ序の口よ」「笑って踊って」「転んだらまた起きて」「40、50」「60!」「70!」「80!」「その先も」
彼女たちのキレのいい言葉を聞いていると、見ているこちらも、年を取ることはそんなに悪いことじゃない気分になり、大げさじゃなくてこれからの人生に希望が湧いてくる。ただ威勢がいいだけじゃなく、彼女たちにもそれぞれの苦難と悲哀に満ちた人生があって、それがさらに言葉に厚みをもたらしている。
何より大切なのは、新しい世界へ飛び込む勇気と自己肯定感だと教えてくれるドラマでもある。あれだけ投げやりだった新も「まだ40だし」と言えるようになった。
過去を知ることの大事さ
3つ目の驚きは、このドラマがスケールの大きな時代感を持った作品だということだ。これは有間しのぶの原作どおり。
ジルバはブラジル移民の二世で、日本へ帰国途中に最愛の夫と子を亡くしていた。戦火に翻弄されたジルバは、やがて戦後の焼け跡でマスターやくじらママと出会い、貧困に苦しみながら「OLD JACK&ROSE」を立ち上げて現在に至る。
ジルバは福島の浜通り出身だった。浜通りはブラジル移民の多かった土地である。新も福島出身だ。新の弟、光(金井浩人)は東日本大震災で仕事と家を失った過去を持つ。戦中と戦後、震災と震災後の日本が作品の中でつながっている。
マスターは店の歴史を語るチーママ(中尾ミエ)を見ながらこんなことを呟く。
「語り部も必要さ。でないと、あのころのことはどんどん風化しちまう」
今後、このドラマは困難に直面した人々の不屈さと共に、現在につながる過去を知ることの大事さも描いていくだろう。後半の展開を楽しみに待ちたい。
なお、2月13日に福島県沖で発生した地震のため、多くの地域で第6話が深夜に繰り下げて放送されたが、続々と再放送が決まっている。また、TVerでは1話から6話までが無料配信中。
関連記事
-
-
サバ番出演、K-POPへの憧れ、両親へのプレゼン…それぞれの道を歩んだ5人が、新ガールズグループ・UN1CONになるまで
UN1CON「A.R.T.」:PR