作家・演出家・俳優の岩井秀人は、10代の4年間をひきこもって過ごし、のちに外に出て演劇を始めると、自らの体験をもとに作品にしてきた。
岩井は、「普通の人」とは違う伝説を作るために高校を中退し、家を離れ、住み込みの働きに出るもすべてがうまくいかない。父がいる家にまた戻り、本格的なひきこもり生活が始まる。
本格的なひきこもり生活が始まった
誰しも「理想の自分」というものがある、もしくはあっただろう。多かれ少なかれ、人は理想と現実のギャップに苦しみながら現実を受け入れていって、なんだか成長した気になったりするんだろう。僕にも「理想の自分」があった。15歳から21歳くらいまで、か〜なり強めにあった。
それは「孤高のハードボイルドでなければならない」というものだ。相当やっかいである。だが、当時の岩井秀人にとってそれはもう、大前提であり、最重要のスピリットだった。
だから、当時心酔していた尾崎豊よろしく高校は辞めるのが当然だった。「このままではどこかに埋もれてしまう」という漠然とした恐怖に常に苛まれていた。「普通の人」とは違う、明確な伝説作りとして、自分には「高校中退」が必要だった。
ちっさい物置の中で、母に「早く高校を辞めないとこの気持ちがなくなっちゃう」みたいなことを泣きながら言ったことを覚えている。母は息子の将来を案じて泣いていた。そんな母を見て「やっぱり俺はすごいことをやろうとしてんだ」と、どこかで気持ちよくなって、さらに泣いたりした。
そんなこんなで高校を辞めたが、その後はさんざんだった。
働きに出るも「すべての人々から尊敬される」はずだった人間関係もまったくうまくいかず、1カ月で帰還。
酔った父に「お前はこのまま乞食にでもなるのか?」と煽られながら、やっとの思いで再入学した高校でも、教室で僕を殴るフリをして大笑いした謎の地理の先生に、それだけでもずいぶん謎なのにさらに謎に呼び出され、謎発言「さっきはカッコつけさせてくれてありがとな」を謎にぶちかまされたりした。
さらっと書いたが、当時の僕にとってすべてがひどく耐えがたい出来事で、そのままふたつ目の高校もやめてしまった。そのころにはもう、積極的に外に出ようとする気力を失っていた。そうして、本格的なひきこもり生活が始まった。
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