忙しさからくる疲れと、新型コロナウイルスによる外出自粛の影響で、日々の食事をおざなりにしていた結果、「力が出ないほどに痩せてしまった」というライターの僕のマリさん。
そんなとき、彼女は『まだ温かい鍋を抱いておやすみ』(彩瀬まる)を読み、改めて自炊をしてみようと思い立つ。食材で満たされていく冷蔵庫を見て、食事に気を遣い、自分の体をいたわることは、心を満たすことにもつながると気がつく。
※本記事は、2020年6月26日に発売された『クイック・ジャパン』vol.150掲載のコラムを転載したものです。
死にたいほどつらくてもお腹は空く
今年の頭になんとなく体重計に乗って吃驚した。38キロしかなかったのだ。友人が飼っている大型犬より軽い。会う人会う人に「痩せた」と言われ続けていたのだが自分ではそこまで気にしていなかった。確かに身体が骨張っている感覚はあったし、服もサイズが合わなくなってきたと思っていたが、改めて数字で見ると驚きが大きかった。
近頃は仕事で忙しく常に疲れていたので、食べることよりも寝ることを優先していた。家で料理をする余裕もなく、たいてい外食をするか、買ってきたものをぼそぼそと食べる味気ない生活が続いていた。
今年の春は、外出自粛の影響で飲食店が20時までしか利用できないという由々しき事態に見舞われた。いつも遅い時間に食事をとっていた自分には不便で仕方ない。
外食ができないとなるとコンビニかスーパーの弁当を食べるしかないのだが、それにも飽きてきた。ともすれば自炊しかないのだが、わたしはもう三、四年は自宅で料理をしていない。ひとり暮らしをはじめてから自炊していた時期もあるが、仕事が忙しくなってからはすべて諦めてしまって、引っ越しのタイミングで食器も調理器具も全部捨ててしまった。
しかし、「時間がないから」「どうせ買えば済むのだから」と食事をおざなりにしていた結果、力が出ないほどに痩せてしまった。
彩瀬まる著『まだ温かい鍋を抱いておやすみ』には、「食」にまつわる6つの物語が収録されている。生きていくうえで切り離せない、食事の記憶と生の記録。その筆致はあたたかく淡く、どこかなつかしさを帯びていた。死にたいほどつらいことがあっても、罪悪感に苛まれる夜も、変わらずお腹は空く。食べることは生きること、生きることは食べること。どんなにひもじくたって、温かい食べ物はいつでもお腹と心を満たしてくれる。読み終えたころには、やさしい思い出ばかりが顔を出した。
自宅にいる時間が増えて、「生活」について考え直すきっかけができた。調理器具を買い、食材を選び、調味料を揃える。久々の料理は思っていたよりも楽しくて、なにかを作っている間は不思議と満たされた気持ちになる。
すかすかだった冷蔵庫は食材でいっぱいになり、食事を作ることへの意欲も日ごとに湧いてきた。体重も少しずつ戻り、身体のだるさも抜けてきた。「血肉になるものを食べなさい」と、何度となく言われてきた。
自分の身体をいたわることは、やがて心を潤すことになる。新たな楽しみを見つけたいま、人生に無限の可能性を感じている。きちんと生きるって、きっと悪くない。
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