『キングオブコント』“最遅”の感想振り返り。M-1が100m走なら、コントの採点はフィギュアのようだ|奥森皐月は傍若無人 #7


『キングオブコント』の審査はフィギュアスケートのようだ

2021大会の大きな見所といえば、審査員が一新されたこと。私は昨年までのバナナマン、さまぁ〜ずの審査も好きだったので少し残念ではあったが、新審査員のメンバーは誰もが納得する盤石の布陣。過去に同じ舞台で戦った者としての真摯な姿勢が印象的であった。各審査員の緊張感と共に滲み出る情熱が今大会をよりよいものにしていたように思う。

唯一気になったこととしては、審査員全員が「完全なる作り手」であることだ。ネタを作っていようがいなかろうがコントのプロであることには変わりない。ただ、贅沢をいうと「ネタを作っていない側」の目線も聞いてみたいと思った。これが正しいかはわからないが、いわゆる“ネタ受け取り師”には受け取り側の才能や美学があるのだと思う。つまりは、構成や展開ではなくキャラクターや演技力、動きや顔のおもしろさに重きを置いた審査員が紛れていてもおもしろいのではなかろうか。

もっといえば「小道具のよさ」に重きを置く審査員がいてもいい。審査員全員が小道具に重きを置けば、クロスバー直撃やスーパーニュウニュウが高得点を得るだろうし、ガクヅケが優勝する可能性もある。最近のガクヅケはレジを自作しているのだから。ここで問題に直面するが、以前チョコレートプラネット主催で『KOK キングオブコドウグ~小道具ネタNo.1決定戦~』というライブが開催された。それの大規模テレビ版にするわけにはいかないので、そうはいかないことはわかっている。

“ラジオ変態”奥森皐月インタビュー
奥森皐月インタビューより(撮影=山口こすも)

話が逸れたが、やはり作り手の審査は「構成力」や「展開」が高得点につながっているように思えてしまった。ナイツ塙(宣之)さんは著書の『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』(集英社)にて『M-1グランプリ』を「漫才という競技の中の100メートル走の日本一を決める大会」としている。漫才をスポーツのように見せているという言葉が印象的。

これに対し、私は『キングオブコント2021』をフィギュアスケートのように感じた。同じスポーツでも、芸術性で点数が左右するところに大きな違いがあるだろう。2021年の「日本一のコント」は技術力が高く、美しく、さらには我々を驚かせる新たな発想まで求められる。それゆえに今年の大会はそれぞれのコンビが個性的かつ新しい、最高のパフォーマンスを見せて大きな盛り上がりを見せたのであろう。ただ笑える、を超えた作品力が『キングオブコント』の醍醐味なのかもしれない。

おそらく2021年最遅の『キングオブコント』振り返りであったが、今年の大会が素晴らしかったことは先月も今月も変わらない。そして、来年再来年と時間が経つごとにまた新たなコントが生まれるかと思うと生きる希望を持てる。『キングオブコント』はいつまでもありつづけてほしい大会だ。あくまで個人的な自分の中のわがままは、いつかどこかで叶う大会が生まれることを願うしかない。

顔のおもしろさだけで勝敗が決まる賞レースや、いかに展開をせずに笑わせられるかを競う賞レース。おもしろさの尺度は簡単には決められないし、それを決めるのは観る人自身だと思う。誰もが本当に好きなお笑いに出会ってから人生を終えたら楽しいだろうに。お笑いの宇宙はあまりに広がり過ぎている。

5GAPが優勝する大会はなんだろうかと考えながら過ごすと心がざわざわする。この気持ちはなんだろう。ただひとつ間違いなくいえることは、お笑いのある世界に生まれてきてよかった、ということだけだ。

連載「奥森皐月は傍若無人」は、毎月1回の更新予定です。

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