親友のような関係性ではなくても、私たちは手を取り合える
高校生になった私は数少ないが信頼できる友人ができ、その存在の喜びを知った。 そして、大学でも友達づくりに勤しんだ。心から会話ができる、真正面から言葉をぶつけ合える本当の友達を探して。
しかし、ありのままの私に自信がなかったのか、誰かの機嫌を損ねないための見栄えのいいファッション、ウケがいいとされたメイク、どこにも意思が介在していない私になった。膝丈のシフォンスカートや染めた茶髪は空虚だった自分の証のようで、本屋で当時手にしていた雑誌の前を通るたびに息が苦しくなる。
想像していたよりも簡単に友達のような存在ができ、放課後にはカフェや飲み会に行った。集まると悪口に花が咲くことを知り、「そうだよね」「わかるー」という冷たい共感が自分を殺していく感覚を味わった。矛先が私に向けられているわけではないのに、殺されていく。この息苦しさに気づかないように、心を閉じるようになった。
ある日、ひとりの女の子に気づいた。彼女は悪口が始まるとじっと黙り込む。当たり障りなくそこに存在するのだが、おもしろいくらいに、悪口の宴会が始まると同時に心をどこかに飛ばしている。愛想笑いも共感の言葉も発さず、話題が変わると温度を帯びて話し始める彼女の存在に私は少し勇気をもらった。
違和感に意見できるほどの強さはまだ持てなかったが、無視することも立派な表明だ。「もっと自分も他人も大切にしよう」。その集まりには次第に行かなくなり、私は彼女と友人になった。頻繁に連絡を取り合う仲ではないが、必要なときに手を取り合える場所にずっと居たいと思う。
無理に目線を合わせなくても、相手の期待に添えなくても
女性同士の連帯を示す“シスターフッド”という言葉があるが、『違国日記』では性別も年代も超えた同士の物語が描かれているように思う。たとえ親友のような関係性でなくても私たちは手を取り合えることを、槙生や朝に教えてもらった。
「なんでそーやってわかんない言葉で喋んの?ちがう国の人みたい」(6巻)と朝が言うように、槙生の言葉はけっしてわかりやすくない。高校生の朝に伝わりやすい言葉に置き換えて伝えるのではなく、あくまでも自分の尺度で紡ぎ出した言葉で伝えるのは、彼女を子供扱いせず一個人として尊重しているからだろう。
事故後、混乱していた朝に対して日記を書くことを勧めた槙生。
「この先 誰が あなたに何を言って …誰が 何を 言わなかったか あなたが 今… 何を感じて何を感じないのか たとえ二度と開かなくてもいつか悲しくなったときそれがあなたの灯台になる」
(『違国日記』1巻より/槙生)
きっと、このときの朝は言葉の意味をわからなかったはず。それでも、槙生の心からの言葉はいつか朝の言葉となって彼女に蓄積されることを願う。無理に目線を合わせなくても、寄り添わなくても、相手の期待に添えなくても、時々にバランスや距離を調整しながら自分の言葉を伝えること。そんな誠実な態度が、自分も他人も大切にするための一番の手立てだと槙生から思う。
考えて、考えて、伝えたい。相手を想いながら自分のものにした言葉で、私は私の考えをあなたに伝えたいし話したい。
ライターの羽佐田瑶子による、コミュニケーションやジェンダーを考えるためのマンガレビュー・エッセイ。月1回程度更新です。
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