「静止」を彩る無数の雪たち
要所要所に「静止」が挟み込まれるということが何を意味するか。
剣心=佐藤健は、その肉体を「静止」することで、『るろうに剣心』という世界の時間を支配している。「静止」するということは、時間を自在に操ること。
時間。
『The Final』では、ひとりの青年が個人的な復讐のために剣心の前に立ちはだかる。それは、かつて剣心がまだ「人斬り抜刀斎」と呼ばれていたころの過ちによるものだ。
『The Biginning』は、その過ちに至るまでの抜刀斎時代を描く。つまり、『最終章』は両作とも「過去」という時間がモチーフとなる。
剣心が内包している時間。
剣心がそのただなかに居た時間。
その時間を照射しているのが『最終章』2部作だ。
時代の変わり目を舞台に選んだ『るろうに剣心』。確かに前3部作は、時代劇だった。しかし、剣心の時間を凝視する今回の2部作は、時代劇ならぬ「時間劇」と呼ぶにふさわしい。
アクションは、さらに進化している。スピードアップしているし、新たなダイナミズムを獲得してもいる。だが、そんなことよりも、剣心=佐藤健の「静止」のありようの深化が圧倒的だ。
「時間劇」における「静止」を彩るのが、無数の雪たちであることに、究極のロマンティシズムがある。
この世には、溶けない雪がある。
怒濤の活劇、剣心=佐藤健ならではの「静止」、そして、雪。この三位一体が、極上のロマンティシズムを運んでくる。
描かれている状況自体はひどく過酷なものだが、雪が秒速50センチメートルで降りつづけることで、その光景は美しいものになる。
雪には、すべてを覆い尽くす側面があり、音のない世界を醸造する力がある。
雪を見て、人が敬虔な気持ちになるのは、この効能によるところが大きい。
『最終章』における雪は、剣心の「時間」をシェルター化し、「無限の時間」、あるいは「無時間」にしている。
それにしても、佐藤健という演じ手は、どうしてここまで雪が似合うのだろう!
それは彼が、緋村剣心を通して、「静止」することのかけがえのなさ、無限性、予感、ときめき、一瞬、永遠を知り、すべてを把握しているからではないだろうか。
秒速50センチメートルで落下している雪は、その結晶体の美貌もあり、舞っているようにも、止まっているようにも映る。つまり、そこでは下降と上昇と「静止」が同時にある。
佐藤健は美しい。
だが、これまで、その美しさを表現する術がなかった。
だが、ようやく見つかった。
雪だ。
桜と同じスピードで、舞い散る雪。
超然とした風格。
凛としたテクスチャ。
柔らかな透明性。
ひんやりとした気持ちよさ。
刹那。
笑顔。
瞳。
白。
雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう。
そのとき、心が目撃した「ひとひらの結晶」が佐藤健だ。
この世には、溶けない雪がある。
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映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』
『るろうに剣心 最終章 The Final』2021年4月23日(金)全国ロードショー
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』2021年6月4日(金)全国ロードショー
監督:大友啓史
原作:和月伸宏『るろうに剣心−明治剣客浪漫譚-』(集英社ジャンプ コミックス刊)
出演:佐藤健、武井咲、新田真剣佑、青木崇高、蒼井優、伊勢谷友介、土屋太鳳、三浦涼介、音尾琢真、鶴見辰吾、中原丈雄、北村一輝、有村架純、江口洋介
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)和月伸宏/集英社 (c)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会関連リンク
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