『高橋幸宏のオールナイトニッポン』
石野 「Blue Monday」がリリースされたのは、83年の3月なんだって。俺が最初に聴いたのはリリースされてすぐなんだけど、高橋幸宏さんの『オールナイトニッポン』(※4)で、当時ロンドンに住んでたカメラマンのトシ矢嶋さんっていう人が最新のUKチャートトップ3を紹介するコーナーがあって。そのときに(「Blue Monday」が)1位だったの。で、俺、まさに君と同じで、イントロの「ドッドッドドドドドド」を聴いて鳥肌が立ったの。未だに消えてない、心の鳥肌がね(笑)。でもさ、曲も長いし、AMラジオで時間の都合もあるから、ベースラインが始まったところでフェードアウトされて。
瀧 ボーカルは入らず(笑)。
石野 録音してたから、そこばっかりずーっと聴いてた。
瀧 12インチはどうやって手に入れたの?
石野 輸入盤を買ったんだと思う。「Blue Monday」のシングルはジャケットが5インチフロッピーディスクの形になってるんだけど、俺が買ったやつはセカンドかサードプレスで、穴が開いてない真っ黒なスリーブで、すごいがっかりしたんだよね。だから、お前が聴いたのは穴が開いてないほうのバージョン。でも、俺がラジオで聴いたのは穴が開いてるほうのバージョン。その点では俺のほうが一歩リードしてる。俺のほうがピーター・サヴィル(※5)寄り。
瀧 聴いたっていっても、AMだろ(笑)?
石野 「Blue Monday」の何が衝撃的だったかっていうと、PCMのドラムマシンっていう、実際にドラムの音をサンプリングした音が鳴るドラムマシンを使ってたのが画期的だったのよ。それまでは、シンセサイザーとかオシレーターとかで作った、ドラムに似せた音のドラムマシンしかなくて。その生のキックが16分で、しかもジャストで鳴ってるっていう。それが衝撃的だったんだよね。
瀧 ツーバスでもないのにっていうね。
石野 ヘヴィメタルのツーバスともまた違うっていうかさ。それで、高校3年生のときかな、85年に新宿の厚生年金会館へ初来日(※6)を観に行ったんだよね。そのときの印象は、とにかくステージが暗くて、青白い照明の中で……稲川淳二がさ、怪談するときの照明っていうか(笑)。で、メンバーがうつむき加減で、つまらなさそ~に下手くそな演奏をつづけるっていう。俺は、ほんとのニュー・オーダーはマンチェスターにいて、2軍が来たのかと思って(笑)。曲が始まってもしばらくわからないぐらい、田舎の高校生から見ても「うまくねえなあ!」っていう。
※4 高橋幸宏のオールナイトニッポン:1983年4月から12月まで放送されていたニッポン放送のラジオ番組。高橋幸宏がパーソナリティを務め、YMOの「散開」を発表した番組としても有名。写真家のトシ矢嶋はロンドンから国際電話で現地のレポートをしていた。
※5 ピーター・サヴィル(Peter Saville):マンチェスター出身のアートディレクター、グラフィックデザイナー。レーベル「ファクトリー・レコード」でニュー・オーダーなどの作品を担当。独特のミニマルなデザインで知られており、ジョイ・ディヴィジョン『Unknown Pleasures』のアートワークもサヴィルの仕事。近年はサッカー・イングランド代表のユニフォームやバーバリーのロゴ、ユニクロの“UT”シリーズなどを手がける。
※6 ニュー・オーダーの初来日公演:1985年5月、スキャンダル、ニック・カーショウ、ジョン・ウェイトと共に来日。東京厚生年金会館と大阪厚生年金会館でライブを行った。
石野文敏の「5 8 6」カバー
石野 ニュー・オーダーの音楽には、なんとも言えない魅力があるよね。手作り感っていうかさ。俺らが高校生のころって、ヘヴィメタルが流行っててギター小僧が多かったから、「うまいほうがすごい」っていう風潮があって。それに対してニュー・オーダーには、テクニックじゃないパッションがあったっていうか。そこに音楽の魅力を感じてた。ニュー・オーダーに「5 8 6(※7)」って曲があってさ、僕、本名「石野文敏」っていうんだけど、高校生のころにカバーしてて、「石野文敏 5 8 6」って検索するとYouTubeで出てきます(※8)。それこそ瀧が通い詰めてた勉強部屋で──。
瀧 6畳ひと間のね。ベッドがあって、本棚があって、レコードプレーヤーとレコードが並んでて、その横にドラムセットがあって。それを6畳間で叩くんですよ。でも、スネアがなくなっちゃったんだよね。
石野 ヘッドが破れちゃって。当時、金なんかないから、スネアの代わりにしたのが、ダンプ松本(※9)でおなじみの一斗缶。
瀧 あれを叩くと、「パシャーン!」っていい音がするっていうね。
石野 超近所迷惑だよね(笑)。そのスネアでやったやつがあるんだよね。もしよかったら聴いてみてください。
瀧 あの「5 8 6」、なんか(熱が)込められてて、いいですよ。
石野 完成度はおいといて、さっき言ったテクニックじゃなくてパッションだよね。
※7 5 8 6:セカンドアルバム『Power, Corruption & Lies(権力の美学)』(1983年)の収録曲。曲名は別の楽曲「Ecstasy」のリズムに由来。ライブでは“5, 8, 666…”という不穏なカウントと共に演奏が始まる。「Video 5 8 6」という20分超の初期バージョンもある。
※8 石野文敏の「5 8 6」カバー:以前YouTubeで聴くことができたが、現在は削除されている。2013年のNHK-FM『サウンドクリエイターズ・ファイル』で放送されたことも。『Takkyu Ishino Works 1983〜2017』(2017年)に収録されている「石野文敏(16)」名義の「Noise In The Ear」やパブリック・イメージ・リミテッド「Low Life」のカバー(https://twitter.com/TakkyuIshino/status/694764577108590593)は同時期に制作されたものだと思われる。
※9 ダンプ松本:日本の女子プロレスラー。1988年に引退したが、2003年に復帰。一斗缶を凶器として試合で使用する。
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR