【大注目の6作】2022年5月のオススメ映画情報

2022.5.6

話題作の公開がつづく5月、観たい映画は決まっていますか? 映画評論家・映画ライターのバフィー吉川がセレクト&推薦する、注目の映画作品をお届けします。


中国の人気お笑い芸人が監督&脚本&主演『僕と彼女のファースト・ハグ』

(C)2020 Aim Media Co., Ltd. Huayi Brothers Pictures Ltd. Huanxi Media Group Limited (Tianjin) All rights reserved

監督:チャン・ユエン/脚本:チャン・ユエン/出演:チャン・ユエン、リー・チン、シェン・トンほか
5月6日(金)新宿武蔵野館ほか順次公開

ストーリー

すべてが整理整頓された状態で、決められた時間どおりに行動しないと気がすまない極度の潔癖症のピアノ教師バオ・バオ。他人と触れ合うなんてもってのほかだが、それでも温もりを求めていた。ある朝、偶然出会ったミュージシャン・ウェンヌワンが出場する対戦型の音楽番組に、バオ・バオが乱入したところ絶大な人気を獲得する。戸惑うバオ・バオだったが自分を変えるため、ウェンヌワンとコンビを結成し優勝を目指すことに……。

おすすめポイント

監督・脚本・主演を務めたチャン・ユアンは、中国版吉本興業ともいわれる「喜劇集団・開心麻花」のトップスター。残念ながら日本ではまったく知名度がないため、開心麻花人気でのヒットは望めないし、中国ならではのコテコテなギャグシーンはあるものの、物語自体はしっかりしている。重度の潔癖症である主人公が、ズボラ女子のウェンヌワンと出会ったことで過去のトラウマを克服していく様子も丁寧に描かれる。

TikTokも全面協力とあって、音楽エンタメ映画としてのクオリティも高い。何よりウェンヌワンを演じているリー・チンの透き通るような美しさが目を惹く作品ともいえるだろう。

12時間だけすべての犯罪が合法に『フォーエバー・パージ』

パージ
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS

監督:エヴェラルド・ヴァレリオ・ゴウト/脚本:ジェームズ・デモナコ/出演:アナ・デ・ラ・レゲラ、テノッチ・ウエルタ、キャシディ・フリーマン、レヴェン・ランビン、ジョッシュ・ルーカス、ウィル・パットンほか
5月20日(金)公開

ストーリー

移民増加が深刻な社会問題となったアメリカ。政府は対策として、12時間だけ殺人を含むすべての犯罪が合法になる“パージ”を復活させる。命からがら恐怖の一夜をやり過ごした人々だったが、“パージ”に乗じて人種差別主義の過激派組織が暴走。終わりのない“無限パージ”へ突入し、アメリカ全土が無法地帯と化してしまう。

崩壊寸前のアメリカを援助するため、メキシコ政府は6時間に限り国境解放を宣言。メキシコからの移民のアデラとホアン夫婦は雇い主の一家と国境を目指すが、道中で出くわした過激派の一団に追われてしまう。果たして彼らは極限の恐怖から生き延び、タイムリミットまでにアメリカを脱出することができるのか……。

おすすめポイント

『パージ』シリーズも第5作にして最終作。とはいっても、「最終作」というワードは、信用ならない作品である。

麻薬や人身売買など、極端に治安の悪いメキシコからアメリカに逃げてきたのに、メキシコのほうがマシだったと逃げ帰る究極の皮肉。今までのシリーズにあった、説得力のまったくない、中途半端な政治劇が削ぎ落とされていて、「人物描写など知ったことか!」と言わんばかりに展開される、シューティング・アクションのような演出が逆に潔い。

理由はなくても固定概念によって、憎み合っていた白人とメキシカンの友情の芽生えには、まさかの感動も!?


レインボーのファン必見!河崎実の“不条理動物シリーズ”復活『タヌキ社長』

監督:河崎実/脚本:河崎実/出演:町あかり、関智一(タヌキ社長の声)、ジャンボたかお(レインボー)、池田直人(レインボー)、モト冬樹、吉田照美ほか
5月20日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサほか 全国ロードショー

ストーリー

信楽矢木雄、58歳。彼は一代で信楽酒造を業界有数の企業に仕立て上げた傑物だ。実直で誠実なタヌキ社長に秘書の房子は密かに想いを寄せている。しかし、房子に片想いをしているライバル酒造の社長が信楽酒造を潰そうと画策していた。タヌキ社長と信楽酒造の運命はいかに!?

おすすめポイント

イギリス映画『えびボクサー』に触発されて、『いかレスラー』『コアラ課長』『かにゴールキーパー』といった、動物の擬人化コメディとおバカな映画を撮りつづけているが、クオリティは置いといて『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』や『遊星王子2021』などを手がけるなど、実は特撮への愛も忘れてはいない河崎実の最新作。

『オッドタクシー』や『BEASTARS』など、動物の擬人化作品がブームな現代に、不条理動物シリーズが復活。(日本橋三越本店の福袋企画『メグ・ライオン』は含まれないらしい……)

物語は不安定ながらも王道を行くが、「電エース」ネタをここまでかと引っ張る長尺なメタネタもあり、町あかりの歌唱シーンもあったりと、河崎実印のシュールなお笑い番組と思って観ると許せる作品だ。なんと今作、お笑い芸人レインボーのコントシーンが3分の1を占めているだけに、レインボーのファンは必見!!

軍人の妻たちによる“合唱”が思わぬ方向へ『シング・ア・ソング!〜笑顔を咲かす歌声〜』

(C)MILITARY WIVES CHOIR FILM LTD 2019

監督:ピーター・カッタネオ/脚本:レイチェル・タナード、ロザンヌ・フリン/出演:クリスティン・スコット・トーマス、シャロン・ホーガン、ジェイソン・フレミング、グレッグ・ワイズ、ララ・ロッシほか
5月20日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷・有楽町・グランドシネマサンシャイン池袋ほか 全国順次公開

ストーリー

愛する人を戦地に送り出し、最悪の知らせが届くことを恐れながらイギリス軍基地に暮らす軍人の妻たち。大佐の妻ケイトは、そんな女性たちを元気づけ、共に苦難を乗り越えるための努力を惜しまないが、その熱意は空回りするばかり。そんななか、何気なく始めた“合唱”に、多くの女性達が笑顔を見せ始める。女性たちのまとめ役リサも、かつて慣れ親しんだキーボード・ピアノをガレージから引っ張り出し、積極的に関わり始める……。

おすすめポイント

軍基地の中にある居住地区で過ごす奥様方は、あくまで夫や家族の付き添いとして支える立場として基地に住んでいることから、夫が留守にしていたり、戦地に行っている間は、寂しさや不安の中、有りあまる時間をどう処理するかも問題となってくる。

外に働きに行けるわけでもないため、とにかく不安を和らげたり、ストレスを発散する「何か」を見つけ出さなくては、精神的に耐えられなくなってしまう。そこで出会ったのが合唱だ。

中には才能を見出されていく者もいれば、いつまでも上達しない者もいる。けっして下手ではないにしても、プロの歌手としては通用しないが、合唱クラブであるなら……という、絶妙なラインの歌唱力が妙にリアリティを醸し出している。

怪物を生み出す苦悩と功績が凝縮『クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち』

(C)FRENETICARTS

監督:アレクサンドル・ポンセ、ジル・パンソ/出演:ギレルモ・デル・トロ、ジョー・ダンテ、ジョン・ランディス、ケビン・スミス、フィル・ティペット、リック・ベイカーほか
5月20日(金)全国公開

ストーリー

『グレムリン』『アビス』『ターミネーター2』『ジュラシック・パーク』『スターシップ・トゥルーパーズ』『スパイダーマン2』など、そのジャンルで活躍してきた数々の有名なアーティストたちのインタビューをもとに、クリーチャーと製作者の間の魅力的な関係性に迫るドキュメンタリー。「現代のフランケンシュタイン(=怪物の創造主)」と呼ばれるあらゆるスペシャリストたちが一から生命を作り出す瞬間に迫る。

おすすめポイント

グレムリンやプレデター、キングコング、ターミネーターなどなど、誰もが一度は目にしたことがあるおなじみのクリーチャーたちを生み出したアーティストたちの功績を紹介していく情報量MAXなドキュメンタリー。

一人ひとりを取り上げていたら数日かかりそうなものを100分に凝縮した入門編といったところで、クリーチャーの制作過程において、表現の幅が広がるCGと、アナログでも味のある特撮のどちらを選ぶべきなのか……という葛藤による分岐点もわかりやすく解説。

監督のジル・パンソは2003年にストップモーションに関する本を出版していることもあり、監督自身が研究者であることも説得力を増している要因。アーティストの背後に映るプロップはもちろん、サイドショウやダイヤモンドセレクトなどのスタチュー(彫像)の数々にも注目!!

実在するフェミニズム活動家の伝記映画『グロリアス 世界を動かした女たち』

(C)2020 The Glorias, LLC

監督:ジュリー・テイモア/脚本:ジュリー・テイモア、サラ・ルール/出演:ジュリアン・ムーア、アリシア・ヴィキャンデル、ティモシー・ハットン、ジャネール・モネイ、ベット・ミドラー、ルル・ウィルソンほか
5月13日(金)kino cinéma横浜みなとみらいほかにて全国順次公開

ストーリー

大学生でインドに留学をしたグロリアは、男性から虐げられている女性たちの悲惨な経験を聞き、帰国後はジャーナリストとして働き始める。だが、社会的なテーマを希望しても、女だからとファッションや恋愛のコラムしか任されない。そこでグロリアは高級クラブの「プレイボーイ・クラブ」に自らバニーガールとして潜入。その内幕を記事にして暴き、女性を商品として売り物にする実態を告発する。

さらにはテレビの対談番組に出演するなど、徐々に女性解放運動の活動家として知られ始める。40代を迎えたころ、仲間たちと共に女性主体の雑誌『Ms.』を創刊する……。

おすすめポイント

フェミニズム活動家であるグロリア・スタイネムの伝記映画であり、2021年9月にAmazon Prime Videoで配信され話題となっていたが、日本ではようやく劇場公開が決定した。グロリアがいかにしてフェミニズム活動家になっていったかを幼少期から追った作品となっており、ライアン・キエラ・アームストロング、ルル・ウィルソン、アリシア・ヴィキャンデルがそれぞれの世代のグロリアを演じ、40歳からはジュリアン・ムーアが演じる。

時代によって変わりゆく女性の権利や価値観、概念にどのようにしてグロリアが関わり、影響を与えてきたかということをスタイリッシュに描き出す。監督・脚本・製作は、ブロードウェイ・ミュージカル版『ライオン・キング』を手がけ、『アクロス・ザ・ユニバース』では独特の色彩感覚による世界観を作り出したジュリー・テイモアが務める。

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バフィー吉川 

2021年に観た映画は1100本以上。映画とインドに毒された映画評論家(ライター)、ヒンディー・ミュージック評論家。2021年9月に初著書『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房)を出版。Spotifyなどで映画紹介ラジオ『バフィーの映画な話』、映画紹介サイト『Buffys Movie & M..

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