WONK井上幹×Sweet William、自らのルーツに影響を与えてきた音楽を語る

2020.1.28

文=渡辺裕也 撮影=向後真孝


日本を拠点としながら北米のブラック・ミュージックに影響を受け、ルーツとしているWONKの井上幹。そして同じルーツを持つトラックメイカー、Sweet William。同世代の彼らがヒップホップのルーツやマナーに対する敬意、そしてトレンドに対する姿勢について語り合った。

※本記事は、2019年8月23日に発売された『クイック・ジャパン』vol.145掲載の記事を転載したものです。

生い立ちが実現するサウンド

ヒップホップを筆頭に、ブラック・ミュージックが席巻している昨今の音楽シーン。そんな時代の潮流と真摯に向き合っているのが、WONKのベース/シンセサイザー担当にして、レコーディング・エンジニアとしても活躍する井上幹だ。そんな彼が同世代の音楽制作者として多大な刺激を受けているのが、トラックメイカーのSweet William。彼らはその時々のトレンドおよびそのルーツとどう向き合っているのか。

井上幹(以下、井上) あれはもう何年前になるのかな。インスタでWONKの曲をカバーしてるビートメイカーがいて、それがウィルくんだったんですよ。当時そんなに知られてなかった僕らの曲を、キーボードで弾いてる動画をアップしてくれてて。

Sweet William(以下、SW) 「Feelin’ You」って曲がすごい好きだったんですよ。同い年でこんな音楽を作ってるやつらがいるんだって。あれはかなり衝撃を食らいましたね。ブラック・ミュージックをやってる同世代のバンドで、なおかつヒップホップにも理解がある人たちって、日本にはあまりいないと思ってたので。

井上 それからしばらくして、それをウィルくんが作っているとは知らずに唾奇の曲を聴いて。「このトラックめっちゃかっこいいな。作ってるの誰だろ?」と思って調べたら「あのキーボードの人じゃん!」みたいな。ウィルくんのことを知ったのは、それがきっかけでした。

─―日本を拠点としながら北米のブラック・ミュージックに影響を受けているのは、両者の共通項でもありますね。

井上 自分としてはこれまで聴いてきたものを素直に出してるだけなんですけど、たしかに僕が聴いてきた音楽は外国のものが多いし、プロダクションという意味で言えば、自分は海外のマナーでやってるのかもしれない。

SW 僕も海外の音楽を聴き漁ってきたので、やっぱりその影響は出てると思う。クリエイターとしては自然とそこに憧れを持ちますよね。

井上 でも、これは僕にも言えるのかもしれないけど、ウィルくんの曲には特有の日本感がありますよね。サウンド自体はヒップホップ・ベースなんだけど、欧米の音楽をそのまま持ってきた感じではない。こういう生い立ちだからできるサウンドになってるのがいいなって。

SW 日本感か。意識したことはないけど、僕は音からパッと絵が浮かぶような作品が好きなんで、それが影響してるのかもしれないですね。「こういう絵が浮かぶときは、こういうコード」みたいなことが自分のなかにあるんで。

トレンドの意識とヒップホップへの敬意

─―音楽を作るうえで、おふたりはその時々のトレンドをどの程度意識していますか。

井上 エンジニアの視点で言えば、かなり積極的に取り入れる姿勢で日々新しい音楽を聴いてます。それはアーティストというよりも職人として、相手からこういうことがやりたいと言われた時に、ちゃんとそれを実現できるようにしたいので。ただアーティストの視点で言えば、そこまで意識してないかな。

SW トレンド、僕はそんなに意識したことないですね。もちろん新しい音楽は耳にするけど、基本的には好きなものがずっと変わらないタイプなんで。

─―たしかにウィリアムさんの楽曲は、ヒップホップのルーツやマナーへの敬意を強く感じます。

SW ヒップホップってあくまでもサンプリング主体の音楽だと思ってるし、僕自身サンプリング文化に衝撃を受けてビートメイクをはじめた人間なので、そこはある程度のルールとして課すようにしてますね。

井上 一部を自分で弾きつつサンプリングを使うウィルくんのスタイルには、僕も憧れがあるんです。しかも、ウィルくんの曲は一発でウィルくんの曲ってわかるんですよね。

SW 結構言われます。癖が出てるのかな。

井上 この前、ウィルくんの楽曲のミックスをやらせてもらって。当たり前ですけど、彼が作ってくるものはめちゃくちゃいいんですよ。しかも、彼はサウンドへのこだわりが強いので、その期待に応えなきゃなって思う。ミキシングエンジニアの僕にとって、ウィルくんはモチベーションを上げてくれる存在なんですよね。


井上 幹(いのうえ・かん)
WONKのベース、シンセサイザーを担当。ミックスエンジニアとしても活動し、リリースされたばかりのEP『Moon Dance』のほかSweet Williamの新作のミックスも手がける。制作中のコンタクトはチャット派。

Sweet William
トラックメイカー。ラッパーの唾奇らが所属するクリエイター集団・Pitch Odd Mansionのメンバー。またラッパーのJinmenusagiとの活動はEPISTROPHの所属としてリリースをしている。制作中のコンタクトは電話派。

この記事の画像(全1枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

aiko×井口理(King Gnu)「あの日のラジオ」と、私たちの音楽の話

aiko×井口理(King Gnu)「あの日のラジオ」と、私たちの音楽の話

King Gnu井口理と新鋭・内山拓也が語る“つづける”ということ。「ひたすら向き合う」その先に見えてくる風景

WONK「理由は“飽きるから”」お金儲けでも効率でもチャートでもない「4人の音楽」を作る意味

ツートライブ×アイロンヘッド

ツートライブ×アイロンヘッド「全力でぶつかりたいと思われる先輩に」変わらないファイトスタイルと先輩としての覚悟【よしもと漫才劇場10周年企画】

例えば炎×金魚番長

なにかとオーバーしがちな例えば炎×金魚番長が語る、尊敬とナメてる部分【よしもと漫才劇場10周年企画】

ミキ

ミキが見つけた一生かけて挑める芸「漫才だったら千鳥やかまいたちにも勝てる」【よしもと漫才劇場10周年企画】

よしもと芸人総勢50組が万博記念公園に集結!4時間半の『マンゲキ夏祭り2025』をレポート【よしもと漫才劇場10周年企画】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「猛暑日のウルトラライトダウン」【前編】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「小さい傘の喩えがなくなるまで」【後編】

「“瞳の中のセンター”でありたい」SKE48西井美桜が明かす“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「悔しい気持ちはガソリン」「特徴的すぎるからこそ、個性」SKE48熊崎晴香&坂本真凛が語る“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「優しい姫」と「童顔だけど中身は大人」のふたり。SKE48野村実代&原 優寧の“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

話題沸騰のにじさんじ発バーチャル・バンド「2時だとか」表紙解禁!『Quick Japan』60ページ徹底特集

TBSアナウンサー・田村真子の1stフォトエッセイ発売決定!「20代までの私の人生の記録」