WONK江﨑文武×渡邊貴志、僕らの住所は音楽「産業」ではなく音楽「文化」であるべき
WONKとEPISTROPHが作ろうとしているのは「文化」だ。かつ、自分たちの「ものづくり」を社会の中で機能させて、アーティストが自活できる世界を目指している。だからこそ、音楽業界という括りの中だけで考えてはいられない。
WONKのキーボーディスト江﨑文武と、プロジェクトをデザインする会社であるSTITCH INC.のディレクター渡邊貴志。彼らが考えるクリエイションとその届け方、そして彼らの理想的な生き方とは。
※本記事は、2019年8月23日に発売された『クイック・ジャパン』vol.145掲載の記事を転載したものです。
海外へのクリエイションの届け方
WONKのキーボーディスト江﨑文武はクリエイティブ全般に関心が深く、音楽以外の分野からも多くのヒントを得ているという。そんな彼が絶大な信頼をおくのが、STITCH INC.ディレクターの渡邊貴志。アーティスト/レーベルはもちろん、山形県のじゅうたんブランド「山形緞通」など、様々な領域のプロジェクトをサポートしている渡邊。そんな彼と江﨑の対話から、WONK及び所属レーベルのEPISTROPHのスタンスに迫ってみたい。
渡邊貴志(以下、渡邊) 僕は以前、TuneCore Japanというサービスで働いていました。その担当者としてWONKのみなさんと初めてお会いしたのですが、その時点から江﨑さんは、本当にいろんなことに関心をもっていて。
江﨑文武(以下、江﨑) もはや僕と渡邊さんは最近、音楽の話ほとんどしてないですよね(笑)。
渡邊 ですね(笑)。でも、結果的にはしてるんだと思います。いつもその時々で興味のあるトピックについて話をしてるんですけど、最終的にそれはすべて音楽につながっていくというか。
江﨑 日本で生まれたクリエイションを海外に届けていくためにはどうするのかってことを思考していくと、音楽以外のものから得られるアイデアってたくさんあるんです。それこそマンガは日本由来のコンテンツとして正しくデリバリーされてるし、服飾関係でもヨウジヤマモトや川久保玲の作品がそう。じゃあ、そこで音楽はどうかというと、作り手として海外に影響を与えるほどの存在感を示せているアーティストって思いつかなくて。きっとクリエイションだけの問題ではなくて届け方の問題も大きいと思うんですよね。
「変わってないね」と思われるための実践
――日本の音楽産業が内向きな状況だと言われる中、WONK及びEPISTROPHの活動は渡邊さんにどう見えているのでしょう。
渡邊 まず、僕らの住所は、音楽「産業」じゃなくて音楽「文化」にあるべきだと思っていて。WONKとEPISTROPHが作ろうとしているのは文化であって、かつ、自分たちの「ものづくり」を社会の中で機能させて、アーティストが自活できる世界を目指している。音楽業界云々の狭い考えではなく。そうしたマインドで日々奮闘している同世代の存在は稀有だし、奮い立たされます。自分は思考と実践が一致している人に尊敬を覚えるのですが、WONKとEPISTROPHはそれを地で行っていて、いつも刺激をもらっています。
江﨑 EPISTROPHはやっぱり審美眼を帯びたレーベルでありたいんですね。とはいえ、この資本主義社会でレーベルとして生きるためには、そうした社会に向きあうための哲学も必要だなとも思ってて。
渡邊 たしかにレーベルが健康的につづいていくためには、社会との蝶番(ちょうつがい)になるような哲学が必要ですよね。その幹が、時を重ねるごとに太くなっていくのが理想だと思う。たとえばEPISTROPHが今はじめているコーヒーや器も、なんとなくマーチャンダイジングをやるような発想とは全然別の意図で、レーベルの哲学を音楽以外の方法で育てているんだろうなと思うし。
江﨑 経営の視点に立ってみると、僕らはまだ余裕のある段階ではないし、明日の日銭を稼ぐことでけっこう精一杯なところもあるんです。でも、やっぱりこういう文化に携わるものって、資本主義的な何かに飲み込まれてしまたら終わりだなと思ってて。だからこそ、一つひとつの価値観を丁寧に提示することだけは一切ブレず、本当に自分たちが格好いいと思うものだけを出しつづけていきたいんです。ファストファッションカルチャーのように効率よく速く今っぽいものを作ることよりも、僕らはエルメスとか虎屋みたいに、哲学や文化が長く継承されている組織のあり方に興味があるので。
渡邊 そうだ、虎屋。虎屋は毎年、あんこの味を変えているって言いますよね(笑)。それは味がころころ変わるって意味とはまったく違って、「今いちばん美味しいあんこ」を届けるために、絶えずアップデートを繰り返しているってことで。そうした揺るぎない信念で実践をつづけている人たちは、本当に格好いいなと思います。
江﨑 建築家の隈研吾さんが歌舞伎座を建て替えられたときも同じようなことを言っていて。人間が変わらないと感じているものは、実は変わっている。その時々で「変わってないね」と思える感覚にチューニングされつづけているんだと。
渡邊 格好いいなあ、ホント(笑)。自分たちも、そうありたいですよね。
江﨑文武(えざき・あやたけ)
WONKのキーボードを担当。東京大学大学院学際情報学府修士課程在学中。数々のアーティストの鍵盤奏者として参加しており、King Gnuの「Prayer X」や「白日」に鍵盤としてサポート参加している。
渡邊貴志(わたなべ・たかし)
STITCH INC.ディレクター。「プロジェクトデザイン」を自身のテーマに、アーティストや音楽レーベル、ものづくり企業など、さまざまなプロジェクトをサポートしている。
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