松山ケンイチ×東出昌大×吉田恵輔 “BLUE”に重ねられたボクサー&俳優の人生

2021.4.6

文=相田冬二 写真=鈴木 渉
編集=森田真規


2021年4月9日に封切られるボクシング映画『BLUE/ブルー』。この映画で描かれるのはボクシングという競技そのものというよりも、ボクシングにすべてを懸けた“ボクサー”の悲喜こもごもの人生だ。

勝てないボクサー・瓜田に扮した松山ケンイチと、勝ちつづけるボクサー・小川を演じた東出昌大、そして30年以上のボクシング歴を持つ吉田恵輔監督の3人が語る“ボクシングと人生”。

「練習した日々の美しさにおいて、勝った側と負けた側どっちが上か下かはない」

私見だが、ボクシングは最も映画と相性のいいスポーツではないだろうか。

日本では「拳闘」という映画的エモーションを掻き立てる2文字で訳されるボクシングは、古今東西、さまざまな名作映画を生み落としてきた。

そして、ここに、最新の名作が誕生した。

映画『BLUE/ブルー』予告編(120秒)

『BLUE/ブルー』。長年にわたってボクシングをつづけている吉田恵輔監督が、松山ケンイチと東出昌大という心躍る顔合わせで贈り届けるまっさらな感動。対照的なボクサーふたりの生き方を中心に、ボクシングという人生を凝視する。もちろん試合シーンも素晴らしいが、ジムという空間でボクサーが過ごす時間がかつてなかったかたちで捉えられていることが本作のオリジナリティだ。そこから見えてくる、ボクサーの内面。一人ひとりのモチベーションが違うからこそ、スクリーンを見つめる私たちも惹きつけられる魅惑がある。

勝てないボクサー・瓜田を体現する松山ケンイチと、勝ちつづけるボクサー・小川を演じた東出昌大、そしてオリジナル脚本も手がけた吉田恵輔監督に訊いた。

松山ケンイチ
(まつやま・けんいち)1985年生まれ、青森県出身。主な出演作に、『デスノート』(2006年)、『ノルウェイの森』(2010年)、『マイ・バック・ページ』(2011年)、『聖の青春』(2016年)など。公開待機作に、荻上直子が監督を務める『川っぺりムコリッタ』がある。

「モチベーション? 始めるきっかけはあったにしろ、やってるうちに瓜田にとっては『居場所』になっていったと思うんですよ。そこにいなきゃいけないということではなく、そこにいることが心地よくなっている。だから、ボクシングができていたんじゃないかな。
ボクシングを観るのは好きなんですが、ボクサーの人たちが闘っているときの気持ち、どういうところがおもしろいのかはわからなかったんです。今回、実際にやってみて、練習のときの動きは相手とのコミュニケーションにもなっていくのがおもしろいなと思ったんです。でも、それはあくまでも練習のおもしろさで。試合ではもう、思いっきり殴られるわけで、非常に危険なことでもある。
そこまでして、どうしてボクシングをしたいのか、知りたかったんです。ボクサーの方々にいろいろ訊いてみると、『勝ったときの快感』とか。ただ、最後まで具体的な何かを見つけることはできなかった。ただ、やっぱり居場所がある、というのは大きいのかなと思いますね」

松山ケンイチの答えを受けながら、東出昌大が語る。

「やっぱり、拳で世界を獲れる、大金持ちになるチャンスがある、ということは大きいと思います。どのボクサーの方もおっしゃるんですよ。『世界ランク1位の人と対戦するチャンスがあったら、やはりやりたい』と。みんな、自分が一番だと思っているし、もしかしたらワンチャンあるかもしれない。上を向いてる部分はあると思います。あと、小川の場合、今さら、ボクシングから抜けられない、ということもあるかもしれません。ボクサーの方の影の部分として、『(虜になってしまっていて)ボクシングをどうしてもやめられない』という人もいるようです」

東出昌大
(ひがしで・まさひろ)1988年生まれ、埼玉県出身。主な出演作に、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)、『寝ても覚めても』(2018年)、『スパイの妻 劇場版』『おらおらでひとりいぐも』(共に2020年)など。公開待機作に、『峠 最後のサムライ』(7月1日公開)がある。

中学生のときから30年以上ボクシングをつづけている吉田恵輔監督は、ボクサーの現実をシビアに見据える。

「プロになってしまうと結局のところ、もう勝つか負けるか、なんですよね。ランキングや誰に勝ったかという、今現在の上下関係でしかなくなる。すごくいい人だけど弱いよね、というのはイヤで。あいつ、クソ性格悪いけど強いよね、のほうを望む。個人の性格とか人間性は関係ない。
ただ、負けた側も、人生という大きなものから見ると、練習した日々の美しさにおいて、勝った側とどっちが上か下かはないなって。死ぬときにお墓に持ち込むものとしては、変わりはないんじゃないかなと」

「何かに向き合い過ぎると、理解を超えた関係性になるのかもしれない」

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