でか美ちゃんが「テレビから聞こえてきた金言」について考える連載、第9回。今回は『NETAMI』(日本テレビ)より。
目次
「他人への嫉妬心」が募る季節、春
出会いと別れの季節がやってきた。
とはいうものの、学生じゃなくなってもう10年ほど経つので、ただただ花粉がしんどい時期という認識になってきている。
応援しているアイドルの卒業報告ブログを読んで、もうそんな時期か~と思うのが正直なところ。新しい環境に身を置くこともなかなかなくなってきたけど、チャレンジ精神だけは忘れたくないものだ。
「ハロプロ・OCHA NORMAの北原ももちゃんもついに春から高校生か! ヒエー!」などと言うだけの大人になってる場合ではないのです。北原ももちゃんと共に(?)ちゃんとがんばれる大人にならなくては……。
しかし、どの人にとっても新年度が差し迫るこの時期は、何かと焦りのようなものが生まれるのではないだろうか?
今年のお正月に、ダラけた自分を立て直す決意をしていたそこのあなた。この「新年度」という便利な節目にもう一度決意を固めているはずだ。というか私がそうです。
ただ、そんなときに他人と自分を比べてうらやんだり、落ち込んだりしてしまう人も少なくないと思う。妬み・嫉みで自分をがんじがらめにしていては、せっかくの春が台なしだ。
そんな「妬み」をとてもポジティブに変換している番組がある。
それが『NETAMI』だ。
芸人が妬むネタを披露するネタ番組。昨年末~年始にかけて全3回で放送されており、そのときも「なんていいコンセプトの番組!」と感動したが、まさかこんなに早く帰ってきてくれるなんて! わーい! ありがとうー!
「お笑いネタ」を評価するプロのコメントへの賛否
今回もMCは変わらず、東京03の飯塚さん、バカリズムさん、ハライチの岩井さんの3名。
キュウ、ファイヤーサンダーなど実力派の若手芸人から、つぶやきシローさんといった大ベテランまで、たくさんのネタを観られるのがうれしい。それだけじゃなく、MC陣のネタまで披露されて今回も最高!(しかしハライチさんのみネタなし。澤部(佑)さんのコロナ療養期間と被ってしまったのかも……?)
「芸人が妬むネタ」というだけの条件だからこそ、コント・漫才・ピン芸と、もちろん芸風もバラバラなのがとっても楽しい。
ネタ披露前後のお笑い談義もおもしろい。岩井(勇気)さんの「自分じゃできない」「賞レースがたくさんある時代に、あの速度でやっているのはすごい」という言葉で、確かにめちゃくちゃすごいことやってるんだなと、お笑いのプロでなくてもキュウの唯一無二さがより立体的に理解できる。
ネタに関して「プロの言葉を聞いてしまうことで純粋に観られなくなる」などの賛否はあるだろうが、私は基本的に褒めているのであれば(それでよりおもしろがれるのであれば)いいんじゃない?と思う派です。
好みじゃないことをおもしろくないと判断してしまう審査員気取りにさえならなければ、視聴者は何をどう観てもいいと思う。
バカリズム「俺も斜めから見てやろうと思ってネタ作ってますよ」
賞レース前後のツイッタータイムラインへの個人的な愚痴を吐き出したところで、今回の金言はこちら。
「俺も斜めから見てやろう見てやろうと思ってネタ作ってますよ」
バカリズムさんのネタが披露されると「いろんなものをまっすぐに見られなくてかわいそう」と盛り上がる東京03と岩井さん。
岩井さんからは「ロートーンで笑いを取るのがかっこいい」、飯塚さんからは「頭抜けた発想力」と妬まれたネタは、「本能寺の変」をドッキリ番組としたときの収録スケジュールを考える『歴史に関する案』。
誰も思いつかないようなネタだからこそ妬まれるのも納得だが、「かわいそう」と口々にイジられたときに出たひと言に、不意に心掴まれた。
バカリズムさんが「斜めから見てネタ作ってるのはみんな一緒でしょ?」と問いかけると、飯塚さんから間髪入れずに「(バカリズムさんにとって)まっすぐが人の斜め」と答えられ、さらにかわいそうな感じに拍車をかけられてしまった。
めちゃくちゃイジってるのに最高の褒め言葉になっているのが『NETAMI』ならではだなぁと感じる。
天才の“人間宣言”から感じた、希望と絶望
私も飯塚さんが言うように、バカリズムさんから見えている景色はほかの人とは違うもんだと思って、ネタも小説もドラマも映画も観ていた。こんなにおもしろいものを作る人は、常人とは脳みそから違うんだろうなーと。
特に大好きな『架空OL日記』なんかは、原作の成り立ちから常軌を逸しているとしか思えない! つまり“天才”ってやつだ。バカリズムさんは誰もが認める天才だと思う。
でも、本人に言わせてみれば、みんなと同じ「まっすぐ」を持った上で「斜めから見てやろう見てやろう」としてネタが作られているというのだ。
すごく、希望のある話だと思った。
芸人とはまた違う世界だけど、私も“天才”と呼ばれる人に出会うたびに、もはや妬むことすらしないようにしてきた。
うらやましいと思えるのは、自分もがんばれば手が届くと希望を持っているからで、相手が天才だとそれすらおこがましいというか……。でも、天才も同じ人間なんだとしたら、自分にも妬む権利はあるように思える。
大げさな話に聞こえるかもしれないけど、圧倒的な存在に対して、脳みそや身体能力や喉の震わせ方、そんな体の一つひとつが同じ作りなわけがないと信じたいのだ。そうすれば、自分のできなさや努力の足りなさは仕方ないものになるから。
でも、それを繰り返しているだけでは、近い場所で妬んで嫉んでグルグル回るのに時間をかけて、人生が終わってしまうだろう。
天才と崇めた人から出た「僕だってみんなと同じですよ」という意味の言葉は、希望でもあり、絶望でもある。
自分があんなふうになれないのはがんばってないから、ただそれだけになってしまう。どの世界にも共通して言えることだろう。あなた、まだまだできることありますよね?がんばってないですよね?と同じ人間から言われたらぐうの音も出ない。
バカリズムさん本人や、それをイジっていた飯塚(悟志)さんも深い意味は持たせてなかっただろうけど、「妬み」をテーマにした番組で出てきたひと言だからこそ、自分の心に残ったのだろう。
うらやましさや妬み・嫉みなどネガティブな感情を原動力にはしないように生きるのが私の個人的なポリシーではあるが、天才だと思っていた人の“人間宣言”には絶望と紙一重の希望があり、ケツをぶっ叩かれたようなポジティブな気合いが入る。
世の中の天才たちはどんどん人間であることをバラしてください。私のような凡人はたくさんいます。ケツをぶっ叩いてください。
『R-1グランプリ』審査員・バカリズムの“ブレない”採点
しかし、バカリズムさんの魅力は不思議なもので、それでも絶対的な天才だろ、と言いたい自分がまだいる。
努力せずの天才だとかそんなふうに扱いたいのではなく、努力は当たり前にしている上で、やっぱり何もかもがほかの人とは全然違う天才に思えて仕方ない。
『R-1グランプリ2022』の初審査員でもつけた点数がバラバラで、自分の軸からまったくブレない姿勢に痺れた。天才だ。
真相が本人にしかわからないところも、めちゃくちゃそれ特有のやつじゃん……と改めて今一度はっきり「天才」と崇め奉りたくなる。
あー! 早くバカリズムさんが脚本の『ウェディング・ハイ』も観に行かないと!
天才であり、同じ人間が作る作品にいつも心を豊かにしてもらっています。テレビだってそう。
凡人はその豊かさを力に変えて、がんばるのみ!
新年度はやる気満々で迎えられそうです!
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