生涯現役だったゲーム音楽の巨匠・すぎやまこういち先生に思いを馳せて


『ドラクエ』を彩る名曲たちとその魅力

『ドラクエ』の音楽の特色といえば、やはり“クラシック音楽”であること。
ゲームは長い間プレイするから飽きないように、さらに、担当者からドラクエの世界観を「中世ヨーロッパの騎士物語のような世界」と伝えられたことでクラシック音楽を思い浮かべた、と先生は語っています。
子供のころ、授業の音楽がとても苦手だった私ですが、お年玉で『ドラクエ4』のカセットテープを買い、AIWAのラジカセにかじりつくようにオーケストラアレンジされたBGMを何度もリピートしました。
当時「ゲームをやる子は頭が悪くなる」というような世間の目があったにもかかわらず、そのオーケストラの演奏はかのNHK交響楽団が担当。いかに『ドラクエ』の楽曲がオーケストラのプロたちにも認められる卓越した音楽性を有していたかがわかります。
近年、一部の小学校の音楽の教科書に「序曲」が載っているそうですが、ドラクエに限らず、ゲームミュージックを介して音楽が好きになる子供たちはたくさんいるんじゃないかな、と思います。

そんな私が、初めてすぎやま先生の楽曲に触れたのは『ドラゴンクエスト2』でした。序曲や戦闘曲にも心を踊らせましたが、今でも鮮明に覚えているのが3人目の仲間・ムーンブルクの王女が加わったあとのフィールド音。
それまでのどこか寂しげな音楽から一転、スキップしたくなるような軽快な音楽へと変化するのです。子供ながらに「ああ、女の子がひとり加わるだけでこんなにも旅って華やかになるんだ!」とナゾの感銘を受けました。

その『ドラクエ2』を象徴する楽曲といえば「Love Song 探して」。ゲームを再開する、いわばパスワードの“ふっかつのじゅもん”を入力するシーンで流れる音楽です。
最大52文字、ドット絵では認識しにくいひらがな……当時、間違えてメモしていたり、誤って入力する子供たちが続出。ただでさえ入力に時間がかかり、挙げ句の果てには“ふっかつのじゅもんがちがいます”と警告され冒険が再開できないなど、ストレスフルな場面なのですが、この「Love Song 探して」がいつまでも聴いていたい、いわばヒーリングミュージックのような楽曲だったおかげで、プレイヤーはイライラすることなくにコントローラーを握りつづけることができたのです。
ちなみに、「Love Song 探して」はボーカル曲としてもリリースされ、歌い手だった牧野アンナさんは、のちにAKB48の「ヘビーローテーション」や「フライングゲット」などの振り付けを手がける有名振付師として活躍されています。

「この道わが旅」という楽曲も、ボーカル曲としてリリースされました。『ドラクエ2』のエンディングでかかる名曲で、いろんなハードに移植されるたびにアレンジされているのですが、(私の中で)最も音色の少ないファミコン音源がどのバージョンよりも心に刺さる珍しいBGMです。
もちろん、初めてプレイしたドラクエであり、鬼畜難度といわれた「ロンダルキアへの洞窟」や「ふっかつのじゅもん」などに苦労した思い出補正もあるのかもしれませんが、ファミコンの音楽とは思えない壮大さで心を大きく揺さぶられる、私にとって特別な楽曲です。ぜひ、オリジナル音源と聴き比べてみてください。

ゲームファンの間で『ドラクエ』といえば、ひとつの完成形と言われる『3』や、結婚イベントが悩ましい『5』などが話題に上がりがちですが、音楽でいえば私的には『ドラゴンクエスト6』(スーパーファミコン版)もハズせません。
中でもバトル音楽はほかのシリーズと一線を画し、ドラムとベースが大暴れするロックテイスト。朝日が差し込む演出が印象的な「木漏れ日の中で」は、シリーズ随一の街BGM。ほのぼのしたタイトルなのに、作中のあるシーンの印象が強くて、なんだか不気味に感じる「ぬくもりの里に」。“あっち”と“こっち”で絶妙にテイストが変わる「フィールド音」など、スーパーファミコンの音源を最大限に駆使した聴き応えのある曲ばかり。まさに、ドラクエのザ・ヒットパレードです。

すぎやま先生の汗と努力とセンスが凝縮された『ドラクエ4』

そして、『ドラクエ』の音楽の中で、私が最も好きなシリーズが『ドラゴンクエスト4』。ファミコンでリリースされた最後の作品です。

ドラゴンクエスト4
『ドラゴンクエスト4』

当時としては安価なのに高性能だったファミコンですが、同時に鳴らせる音は“3音まで”と曲作りにおいては厳しい制約がありました。
さらに、すぎやま先生は“1トラックはエフェクト(効果音)に使いたい”と、『ドラクエ』をほぼ“ふたつの音”で作曲されていたのです。
そんな制限のあるなかで試行錯誤を重ね、進化をつづけた究極形態が、(次世代機で音色やトラック数が増える前の)ファミコン最後の『ドラクエ4』。すぎやま先生の汗と努力とセンスが凝縮された作品であると私は考えています。

まるで組曲のように展開する「戦闘曲」、5章立てのそれぞれの章の主役によって異なる「フィールド音」、不協和音がいかにも危険な場所を冒険している没入感を誘う「呪われし塔」、絶望と恐怖が支配するラスボス戦「第1形態」、そして「第2形態」……etc。初代『1』から同じファミコン音源にもかかわらず驚異の進化を遂げています。

……と、永遠に語っていたいドラクエの楽曲。現在開発中の『ドラゴンクエスト12』にすぎやま先生がどのようなかたちで携わっているのかはわかりませんが、もし新曲を聴けるようなことがあるならば、天空にいらっしゃるすぎやま先生に思いを馳せながら、プレイさせていただきたいと思います。

生涯現役だった巨匠・すぎやまこういち先生。
大冒険には常にあなたの音楽がありました。
謹んで、ご冥福をお祈り申し上げます。

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岐部昌幸

(きべ・まさゆき)1977年10月9日生まれ。群馬県太田市出身。放送作家としてバラエティ番組をはじめ、『ゲームセンターCX』『勇者ああああ』『よゐこのマイクラでサバイバル生活』などのゲーム番組や、ゲーム原作のアニメ脚本などを手がける。