ゲーム好き放送作家が観た「Nintendo Direct」、ふたつのサプライズ

2021.10.4
岐部昌幸ジャーナル

文=岐部昌幸 編集=鈴木 梢


9月24日朝7時からYouTubeで配信された「Nintendo Direct」。任天堂が新作ゲームや新情報を発表するイベントだ。今回は2021年冬発売のゲーム情報を中心に発表される予定だったのだが、ゲームファンの期待をいい意味で裏切る情報がいくつも発表された。『ゲームセンターCX』(フジテレビONE)などのゲーム番組を手がけるゲーム好き放送作家の岐部昌幸が、今回の「Nintendo Direct」の発表情報を振り返る。

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眠気も吹き飛ぶふたつのサプライズ

朝6時50分。うっかりアラームをセットし忘れたのに、恐ろしいものでゲームのビッグイベント前にはちゃんと目が覚めるカラダになっている。世界同時配信のためにそうしているのか、朝早くに配信されることが少なくない「Nintendo Direct」(通称「ニンダイ」)。テレビでは一斉にニュースを報じている7時台からゲーム番組を観るなんて、MC江戸家小猫&新作ソフトコーナー担当ライオネス飛鳥という、攻めに攻めたキャスティングでおなじみ『ゲーム王国』(テレビ東京)以来だろう。

今回のニンダイは、“2021年冬発売のゲームを中心に情報をお届け”と告知されていた。既報ソフトの進捗状況を粛々と紹介する回もあるので、正直、過度な期待は禁物かな、などと思っていたが、フタを開けてみればとんでもない。
眠気も吹き飛ぶビッグサプライズが次々と繰り出されたのである。

サプライズ1 30年ぶりの神降臨!

個人的に今回のNo.1サプライズだったのが、まさかの『アクトレイザー』復刻。1990年、スーパーファミコン黎明期に発売されたオールドゲーマーには忘れられない作品のひとつである。

ゲームの完成度もさることながら、『アクトレイザー』を語る上で欠かせないのがクオリティの高いBGM。
神である主人公が人々の平和を取り戻すため、魔物の巣窟へと降臨するゲーム冒頭のアクションステージ。その名も「フィルモア」のサウンドを耳にして、プレイヤーはおろかゲーム業界の人々も度肝を抜かれた。あまりの衝撃に当時、開発途中だった国民的RPG『FINAL FANTASY IV』のチームが、でき上がっていた音源をイチから作り直したという逸話も広まったほど(のちに「影響は受けたが、作り直した事実はない」と否定している)。

それまでも、近未来を感じさせるロックテイストなサウンドが印象的な『F-ZERO』など、ゲーム音楽におけるファミコンからスーパーファミコンへの進化は見せていたのだが、「ゲーム史におけるひとつの事件」と言われるほど、他を圧倒する『アクトレイザー』の重厚なサウンドは当時、高い評価を得たのである。

手がけたのは古代祐三さん。『イース』シリーズをはじめ、数々の作品を担当しているゲーム音楽界のヒットメーカーである。音楽の素養がない私にとって、古代さんのすごさを言語化できないのがなんとももどかしいのだが、私のSNSに寄せられたコメントに「古代さんの凄さは作曲家としてだけではなくエンジニアとしての能力も高く、そのあたりが他のゲームコンポーザーと違うところ」という指摘があり、なるほど!と、いたく共感したので引用させていただく。
今でも『アクトレイザー』のサントラ(古代祐三ベストセレクション)を定期的に聴いている私にとって、“30年ぶり”という感覚はあまりなかったが、それでもニンダイを観て「久々にやってみたい!」「アレンジされた音楽も聴きたい!」とその日のうちにリマスター版を購入、さっそくプレイしてみた。

アクトレイザー
『アクトレイザー』のゲーム画面

オリジナル作品をベースにキャラクターなどビジュアル面を刷新。懐かしくも新しい世界が広がっていたのだが、衝撃だったのは30年経っても、やはり“サウンド”だった。
今回のためにアレンジされた「リメイク音源」と、オリジナルの「クラシック音源」の切り替えが自由にできるのだが、ゲーム画面は新しいのに30年前の「クラシック音源」がベストマッチ。「リメイク音源」と比べても、まったく遜色ないのである。
だがしかし、ロック調の「リメイク音源」も最高だ! どっちも聴きたい私は、何度もオプション画面を閉じたり開いたり……。正直、ジャンプのBボタンくらいオプションメニューの「+ボタン」を押していた気がする。
今後も、アクションのY、ジャンプのB、そして音楽切り替えの+を駆使しながら30年ぶりのクリアを目指したい。

アクトレイザー
『アクトレイザー』のゲーム画面

もうひとつ『アクトレイザー』のニュースで驚いたのがリリース日である。


“ニンダイで初お披露目”からの“当日リリース”


え? 今日発表して、今日から遊べるの? “特設サイトに謎のカウントダウン”とか、“2021年冬発売予定のところをクオリティアップのため2022年夏に発売変更”とかじゃなくて?

その日、今私が手がけている、あるゲームシナリオ会議でも『アクトレイザー』の話題で持ち切りだった。「当時、続編がアクションパートだけになって寂しかった」「実はクリエイションパートの存在が重要だったんじゃないか」など、熱い議論が交わされるなか、ふと感じたのである。
「ユーザーの熱が高いうちに、手に取れることが大事なのでは」
正直「5ヶ月後に発売」と言われても、魅力的なゲームが次から次へと登場していく昨今、いつまで高まった熱が続くかわからない。ユーザーに最もインパクトを与えるのは発表したタイミング。つまり、そこが一番のビジネスチャンスである。ゲーム内容を周知させるストロークが必要な完全新作に比べ、伝説のソフトのリメイク作品であれば“即発表即発売”もアリといえばアリ。

これまでも、発表のタイミングで「今日から遊べます」というタイトルはあったが、この流れはもっと加速するかも……。“名作のリメイクいきなり遊べます大作戦”イチユーザーとしては大歓迎でございます。

サプライズ2 “ロクヨン”と“セーガー”


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岐部昌幸

(きべ・まさゆき)1977年10月9日生まれ。群馬県太田市出身。放送作家としてバラエティ番組をはじめ、『ゲームセンターCX』『勇者ああああ』『よゐこのマイクラでサバイバル生活』などのゲーム番組や、ゲーム原作のアニメ脚本などを手がける。

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