浜田雅功考|なぜ浜田はウケると「腹立つわ〜」と言うのか

2021.7.13

「おもしろい」コンプレックス

ここまで述べてきたことすべての核と考えられるのが、浜田の強烈な「おもしろい」コンプレックス、あるいは「芸人」に対する苦手意識だ。

くりぃむしちゅー上田晋也、フットボールアワー後藤輝基、千鳥ノブと、たとえツッコミの語彙に傑出したものがある芸人が評価される流れは着実に強まっていて、芸人の「おもしろさ」に占めるレトリックの重要度はどんどん増している。

そうしたトレンドの前の世代ということもあり、浜田のツッコミは至ってプリミティヴだ。ごくミニマルなボキャブラリーで、凝った言い回しはしないしできない。声量とテンポのよさ=パワーとスピードに特化したチューンナップ。

ここでさらなる仮説だけれど、近年のボキャブラリー重視の価値観に照らし合わせると、浜田のツッコミは聴き応えとして「ツッコミ」ですらないのかもしれない。だって特に何かにたとえるわけでも、癖のある言葉遣いをするわけでもないのだから。多くの人の体感として、「おもしろいことを言った」んじゃなく、ただ圧をかけて場を「回し」ているに留まる印象として処理されているんじゃないだろうか。

浜田が「腹立つわ〜」と口にするシチュエーションとして圧倒的多数を占めるのは、後輩芸人がうまいことを言ったときだ。そしてこの後輩芸人とは、普段あまり「センス」を感じさせないような者、あるいは秘めた「センス」をうまく発揮できるほどキャリアを積んでいないテレビ慣れしていない者だ。

フット後藤が何を言っても浜田は「腹立つわ〜」とは言わない。フット岩尾望がふとスマッシュヒットを決めたときに「腹立つわ〜」が出る。テレビに出始めたばかりの、まだ右も左もわからないころの霜降り明星になら言っていたが、その実力を誰もが知るところとなった今の彼ら相手にはどうだろう。

お前も「おもしろい」のか、「センス」の側なのか。そういったある種の裏切られた気持ち、恐れ、羨望や悔しさ、劣等感を覆い隠すために虚勢の怒りでコーティングした表現が「腹立つわ〜」だとしたら。

浜田は「どんな仕事をしているときが一番楽しいか?」と聞かれた際、「芸人がたくさん出るような番組じゃない、しゃべり慣れていないタレントやアスリートを相手に回す仕事」だと答えたことがある。酒の勢いで思いがけず自己開示してしまった格好で、そのときのバツの悪そうな表情、「結果発表」の声量が嘘のように消え入りそうな声が忘れられない。

事実、芸人が浜田以外にひとりもいない、口下手なアスリートたちだけを相手取る『ジャンクSPORTS』で、浜田はほかと比べ物にならないほど生き生きと(あるいは芸人のいない空間で“のびのびと”)場をぶん回している。

松本はもはや一つひとつの言動が本質的におもしろいかどうかが問われる段階を超え、「松本がやることはおもしろいはず」という因果が逆転するほどのプロップスを得ていると言える。そんな半ば概念化した存在の隣で、同じ仕事を、何十年も、つづけてきた浜田の芸人人生の過酷さに思いを馳せる。

『ダウンタウンDX』20年目突入&コンビ結成30周年記念を特集した『クイック・ジャパン vol.104』(太田出版/2012年)

正解を決める力

上記のような説が的を射ていると仮定するならば、そうした芸人らしい「おもしろい」を競うレースへの参加を徹底的に拒否する姿勢こそが、浜田の技能を形作っている。MCという「回し」役に徹することで、「おもしろい」ことを言う責務から降り、その代わり回しのクオリティを徹底的に追究する。回しとは、一つひとつの“決め”の作業を着実にこなし、番組を進行していくこと。

張り詰めたモードでスタッフとの事前打ち合わせに臨み、段取りを完璧に叩き込む。そのときの表情の真剣さは、松本やほかの芸人から反社にたとえられる。番組の進行を妨げるようなこと、たとえば大御所の無軌道なコメントやスタッフの不手際があったときに、浜田は半ば恫喝じみたトーンで怒りをあらわにするが、それにしたって「腹立つわ〜」同様に、気負いや緊張感からくる恐れを怒りとして発露している部分を感じられる。

また、段取りどおりに番組をつつがなく進行するにあたって、前述のパワーとスピードを徹底的に磨いている。『水曜日のダウンタウン』(TBS)で放送された<「結果発表」のコールが日本一上手いの浜田雅功説>によって、他の追随を許さない圧倒的な声量は周知のとおり。そして、注意深く浜田の番組を観ていると──ワイプに抜かれていないときの音声や、引きの画面での挙動などに着目すると──気づくことだけれど、実は惚れ惚れするほど丁寧に前置きをし、訝しみ、笑い、驚いている。

『水曜日のダウンタウン』を特集した『クイック・ジャパン vol.134』(太田出版/2017年)

流れたVTRに意外な結末が待っていれば「そんなわけないやん!」、クイズなら「えっどういうこと?」、オチが来れば手を叩いて笑い、驚きの展開には思いきり眉をハの字にして「えーっ!」と叫ぶ。それらのリアクションを誰より速く行う。誰より速く、声量で圧をかけることで、正解のリアクションを決めている。のちにつづくほかの出演者が「ここは笑うところなんだ」「ここは驚くところなんだ」と倣える、参照すべき手本を示す作業。

“正解を決める”ことで、その規定された価値基準を元に“不正解”もまた生まれる。ボケとは“不正解”だ。正解を決める作業とはつまり、ボケる余地を創出すること。浜田はいわば、松本をはじめとした芸人たちがボケるための段取りを整えることにステータスを全振りしていると言える。

ふたりのダウンタウン


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