松本人志考|松本人志が今やっていること

2021.7.12

ダウンタウンの松本人志。ここ30年以上の日本の“お笑い”の趨勢に最も影響を与えてきた芸人、と言って異論を唱える者はそう多くないだろう。

そんな松本人志がこれまでやってきたことに通底するある要素、また今現在彼がやっているお笑いがどういった性質のものであるのかを考えていく。

※この記事は別媒体で公開された記事に加筆・修正を加え転載したものです。

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どういうお笑い?

千鳥ノブの頻出ツッコミフレーズのひとつに「どういうお笑い?」というのがある。ロケ中、海や沼、釣り堀などの水辺があると必ずやるくだりのオチだ。

水辺でノブが「おい! 絶対押すなよ!」と繰り返し喚くと、近づいて行った大悟がノブを素通りして水に飛び込む。ダチョウ倶楽部謹製の伝統的“お笑い”である「押すなよ」→「押せよ」の流れを期待させておいて、「押さない」どころか大悟のほうが水に飛び込む。このボケに対するツッコミが「どういうお笑い?」だ。

どういうお笑いなんだっけ?

翻って考えると、こういう既存のお笑いの型を大悟が一度台なしにして、それをノブが不思議としっくりくる言葉選びで言い当てる流れ、これそのものが千鳥の“お笑い”のスタイルと言える。

同じように、芸人やグループごとに“お笑い”のスタイルがあり、ネタや言動にある程度の一貫性を感じることができる。ただ、一筋縄じゃ読み解けない芸人もいる。たとえばあまりにもお笑いの世界における存在感がでか過ぎて、全方位的な影響力があると。松本人志のことだ。そういえば彼のやっていることが「どういうお笑い」なのか、ドンとひと言で表現するのは難しい。

長らく言語化できない時期がつづいたある日、ふとしたひとつの小ボケでヒントが得られた。『水曜日のダウンタウン』(TBS)で2018年の『R-1グランプリ(当時:ぐらんぷり)』王者・濱田祐太郎が発したひと言だ。

松ちゃん、見てる〜?

濱田祐太郎が出演した『水曜日のダウンタウン』の説(VTR)は「『箱の中身は何だろな?』得意な芸人No.1、濱田祐太郎説」というものだ。視覚障害のある濱田祐太郎は、視覚の代わりに指先の感覚が優れているであろうという仮説に基づいた企画。

身体障害というものを取り扱うにあたっての剣呑さ・軽率さは見出し得るものの、検証結果は非常に興味深いものだった。ただ、この記事においての肝要は企画の中身自体じゃない。VTR開始直後に濱田祐太郎が放ったボケ、「松ちゃん、見てる~?」だ。

放映当時、ネタ見せ番組以外にはほぼ出演経験がなかった若手も若手である濱田祐太郎が大先輩を「松ちゃん」と愛称で呼ぶことのおもしろを意図したであろうボケ。R-1決勝でも評価されていたさすがの肝の据わりっぷりだ。

ただ、対する松本人志の返しはその何枚も上手だった。「その松ちゃんをお前は見たことないやろ」。電流が走ったように感動した。

お前は見たことないやろ

前提として、このやりとりが生まれる瞬間までのスタジオの空気は「出演者全員が様子を窺い合っている」といったものだった。

なにせ目の見えない濱田祐太郎の“目が見えないこと”そのものをイジるつくりの企画だ。そしてここは障害学やケアの現場の知見に基づいたカリキュラムが導入されていない、障害というものとの向き合い方について一般教養が根づいているとは言い難い国だ。出演者各々VTRにどうコメントしたものかと、嫌な汗のかき方をする緊張感があったのは想像に難くない。

そこを瞬発力で踏み込んで、見えてない人に「見えてないやろ」とツッコんだこと自体もある種のすごみを感じさせるポイントではあるものの、この点も今回の本題じゃない。

本題はこのボケとツッコミの応酬を通して気づいた、松本人志は人がボケたのと別のところにツッコミを入れるということだ

『水曜日のダウンタウン』を特集した『クイック・ジャパン vol.134』(太田出版/2017年)

ボケてないところへのツッコミ

このときの濱田祐太郎のボケの核は「松ちゃん」のほうで、「見てる~?」はあくまで定型文をなぞったに過ぎないというか、「元気~?」でも「久しぶり~」でもいいわけだ。そのボケの核「松ちゃん」を素通りして別のおもしろくできそうなところを見つけてツッコんで、ツッコむことによってその言葉をボケにする。それが松本人志が近年やっている“お笑い”なんじゃないかということ。

「近年の」と言っているのは、昔はそうじゃなかったんだろうと考えられるからだ。松本人志の漫才におけるパートはボケなわけだし、何より昔はその必要がなかったんじゃないかと推測できる。

今の彼のこうした“お笑い”は、今回の場合で言えばボケの核「松ちゃん」の部分へツッコむことが、最近ではもうあんまりおもしろくないから培われたものじゃないだろうか。

つまり、「松ちゃん」の部分が“おもしろいこと”だということはみんなもうわかっているので、そこをわざわざツッコむのはおもしろくない。だから別の、みんなが気づいていないおもしろいところを探してツッコむ。

もうおもしろいはおもしろくない


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