今、スター化するひろゆき。歴史から切り離されて消費されている状況とは?
2020年1月、20年代の始まりに『ポスト・サブカル焼け跡派』という書籍を上梓した1984年生まれのふたり組のテキストユニット、TVOD。同ユニットのパンス氏とコメカ氏のふたりが、前月に話題になった出来事を振り返る時事対談連載をお届けします。
今回は、「漫画村」実刑判決の話題からスタートし、DHC会長による差別的文書の撤回、デジタル改革担当大臣による「完全に干す」発言、さらに「切り抜き動画」の人気でスター化しつつあるひろゆき氏の姿から歴史を継承していく必要性……などについて考えていきます。
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「漫画村」実刑判決とDHCの文書撤回
パンス さて、TVODが2021年の6月を振り返ります。例によって自分で作った出来事リストを見返してみますと……今月もオリンピックの話題が多いですね。あと6月2日には「漫画村」元運営者に実刑判決が出ています。
コメカ 2018年4月に閉鎖してるから、あれからもう3年も経ったんだなあ。でも現状でも漫画村の類似サイトは増えつづけてるみたいだね。完全ないたちごっこ。
パンス 漫画村がまだ騒動になってないころ、けっこう一般的に読まれているという話を聞いてゾワっとしたものだった。もうインターネットのアンダーグラウンドな文化っていうより普通に浸透していて、そこで展開しているんだなーという感慨がありました。
コメカ サブスクリプション・サービスと同じ感覚で違法アップロードサイトも閲覧されているというね。90年代~ゼロ年代と違ってネットが完全にインフラ化したから、アクセスできちゃうなら違法サイトだろうがなんだろうが一般消費者が流れていってしまうわけで……。20年前なら、違法サイトにアクセスするぞ~!というある程度強いモチベーションがないとそういう場には辿り着けなかったわけだけど(笑)。
SNSとかも含めて、WEBサービスが人々の生活環境を規定しまくってるのが現代。「そこにアクセスしている」っていう自覚を持つことすら難しくて、WEBが自明化しちゃってる状況というか……。
パンス そうそう、ここ10年くらいで感覚がだいぶ変わったな〜と改めて実感している。その前提でいろいろ考えないとなーと思ったり。そして5月31日、DHCが差別的、というより差別そのものな文章の掲載を取りやめた。
コメカ 吉田嘉明会長による文書は完全に差別そのもので、撤回するだけでなくこんなものを自社サイトに掲載したことについての説明を公的に行うべきだと思うけど、今現在もそういった声明は何も出されていない。しかしいち企業の会長が、会社の名前を冠したかたちで差別思想を全面的に開陳するっていうのは本当にワケがわからない。
ビジネスと政治を切り離さず、各企業もステイトメントを明確にするべきだ、っていう考え方があるわけだけど、この国でそれを思う存分やっている経済人って、結局、極右カルトみたいな奴ばっかりなんだよなあ。頭が痛くなってくる。
パンス 説明する意思もないんじゃないかなあ。本当に主張したいんだったら前に出て、企業を代表して意図を説明すればいいじゃないかと思うけど(と同時にそんなの聞く気にもなれないけど)、要するに企業の中での地位に安住していて、その上でなんかやりたいことをやっているという以上の動機がないってところにウンザリさせられる。
「完全に干す」発言と田崎史郎
パンス 権力を持っている人がそれをひけらかすのにまったく遠慮がなくなったというのはいろんなところに感じていて、6月の失言だと「完全に干す」なんてのもあったけれども、なんでこんなにすぐにキレてしまうのかと、かつてキレる世代と名指された者として考えてしまうよ。
コメカ 平井卓也デジタル改革担当大臣ね。ちなみに彼の「完全に干す」発言を、「何が問題かずっと考えて、まだよくわからない」と田崎史郎がテレビで発言していたそうです(笑)。社会的な構造の中で自分もそのうちのひとりとして生きているっていうことを、いったいどう捉えているのかなあという気はするよねえ、こういう人たちを見ていると。自分の情動と権力行使を直結させて生きている感覚なのかね、常時リビドー全開って感じですごいよな。他人からしたらはた迷惑なだけだけど。
パンス 田崎史郎のその発言おもしろいな。彼の人間に対する捉え方がよく出てるというか……。最近は、ここ日本の現状においては権力構造をジョージ・オーウェルにたとえるのはもうやめよう!ってよく思ってるんだけど(笑)。あまりにも人間的、というか感情が存分に発露され過ぎててビッグ・ブラザー感があまりない。
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