1948年生まれのイアン・マキューアンと1954年生まれのカズオ・イシグロ。現代イギリス文学界を代表する作家による「AI」を主題にした作品が1月と3月に翻訳刊行されて話題を呼びました。
『恋するアダム』(村松潔訳 新潮社)と『クララとお日さま』(土屋政雄訳 早川書房)。本国で刊行されたのはそれぞれ2019年と2021年でマキューアン作品のほうが先に発表されていますが、2017年にノーベル文学賞を受賞したイシグロが受賞後第1作にあたる『クララとお日さま』を書き上げたのは2019年12月だったそうですから、同作が『恋するアダム』の影響を受けたとは考えられません。複数の作家がほぼ同時期に同テーマの作品を発表する現象は時々起きるのですが、現代文学における重要な作家ふたりによる今回のシンクロニシティは、「AI」がこれからを生きるわたしたちにとっての重要な課題だということを指し示しているのではないでしょうか。
とはいえ、作家としての資質がまるで異なるふたりですから、「AI」をテーマにしても読み心地はまったく違います。まずは、粗筋から紹介していきましょう。
目次
『恋するアダム』人造人間を8万6千ポンドで購入
主人公は若いころからあれこれ手を出してはみたものの、どの事業にも失敗し、32歳になった今はオンラインの株式と通貨市場での投機で生き延びている独身男のチャーリー。同じアパートの上の階に住んでいる、10歳年下の社会史の博士号を持つ研究者ミランダとの関係を進展させたいと思っています。
そんな1982年、両親が遺してくれた家が思いがけないほどの大金で売れたものだから、チャーリーは発売されたばかりの〈初めて本物だと思える人造人間〉アダムを8万6千ポンドで購入。彼を一緒に“育てる”ことで、ミランダとの仲を深められないかと考えたのです。
ところが、インターネットから無尽蔵に知識を吸収し、あらゆる情報にアクセスできてしまえるアダムは、チャーリーにミランダに関する警告を発します。「この数秒間のリサーチと、わたしの分析によれば、彼女を完全に信用してしまわないように気をつける必要があります」「彼女は嘘つきである可能性があります。意図的な悪意ある嘘つきである可能性が……」と。どうも、ミランダは過去に刑事事件に関係したことがあるらしいのです。
その一方で、自由意志を持つことも可能なアダムは、やがてミランダに恋心のようなものを抱くようになり、アンドロイドとの行為に好奇心を抱いたミランダとついにセックスをしてしまうんです。そのことでギクシャクしてしまう三者の関係の変化を丁寧な筆致で追いつつ、作者のマキューアンはアダムがチャーリーに警告したミランダの過去を少しずつ明かしていきます。

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