Jアノン、アリエル・ピンク、陰謀論…2020年代の“カルト”を考える

2021.2.11

『X-ファイル』と陰謀論的想像力

パンス カウンターカルチャーや、それと共にあった60年代の社会運動の一部が、妄想的な想像力になだれ込む歴史というのがあって、日本だと太田龍が代表的。現在は爬虫類星人が地球を支配しているとかいうオカルト本で知られる人だけど、かつては新左翼の旗手だった。絓秀実『1968年』(ちくま新書)などでは、この「転向」を「すっかり変わっちゃった」わけではなく、連続したものとして捉えようと試みていて、とても興味深い。
「偽史的な想像力」というのはサブカルチャーにおいて重要な要素で、そこにモロ影響を受けて実行してしまったのがオウム真理教。日本人はそんなオウムを異物として切り捨てた経験があるわけだが、ネットを見ると、今でもそれにも劣らない妄想に囚われている人々がワラワラと出てくるのはなぜなのか。そこに広義のサブカルチャーの影響はあると思う。
かつて日本でも放送されてた『X-ファイル』とかね。あの作品で陰謀論的想像力のおもしろさを知っちゃった人は多いと思う。小学生だった僕もハマってB’z『LOVE PHANTOM』(主題歌)のCD買ったし……。ジェシー・ウォーカー『パラノイア合衆国 陰謀論で読み解く《アメリカ史》』(河出書房新社)でも、90年代の陰謀論/都市伝説流行の代表としてあのドラマが出てくるのよね。

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コメカ 『X-ファイル』、僕も小学生のころ好きだった(笑)。「音楽に政治を持ち込むな」なんてテーゼが数年前に取り沙汰されたけど、60年代カウンターカルチャーにおける代表的な表現であったロック・ミュージックというのはむしろ、今話していたようなオカルトや、またニューエイジ的な想像力などで現実政治にアプローチしていく傾向がそもそも強くあったわけだよね。
これもまたいろいろ考えてしまうのは、日本における2010年代というのは、サブカルチャー領域に足場を置いていた人々が、さまざまなかたちで政治化していった時期としてやっぱりあると思うんですよ。ただ「音楽に政治を持ち込むな」的な物言いというのが前提にしていたものの中には、今パンスが言っていたような「オウムを切り捨てた」ような経緯というのも一応はあったと思うんだよね。文化/政治の(オカルティックな形式によるものも含めた)接続に対する警戒心というのが、良くも悪くも広がっていた。
しかしここ最近のいわゆる「Jアノン」(日本におけるQアノン陰謀論支持者)と呼ばれるような動きを見ていると、文化の政治化みたいな動機からそういうところに吸収されていっている人も多い気がするんだよ。カウンターカルチャーが内包していたオカルティックなものがどういう末路を辿ったかを知らないまま「政治について考えなければ!」という意識にのめり込むことで、陰謀論への免疫を持たずにQアノンみたいなものに接触してしまう状況。

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