Jアノン、アリエル・ピンク、陰謀論…2020年代の“カルト”を考える
2020年1月、20年代の始まりに『ポスト・サブカル焼け跡派』という書籍を上梓した1984年生まれのふたり組のテキストユニット、TVOD。同ユニットのパンス氏とコメカ氏のふたりが、前月に話題になった出来事を振り返る時事対談連載の第3回をお届けします。
今回は、1月6日に起こったアメリカ合衆国議会議事堂の襲撃事件からスタートして、日本におけるQアノン陰謀論支持者「Jアノン」、さらに愛知県知事リコール署名問題などの話題を通して、さまざまなかたちで立ち上がっている「カルト」について考えていきます。
陰謀論的な想像力と結びつくカウンターカルチャー
パンス TVODが1月を振り返ります。まず何よりも大きな事件は、1月6日の、アメリカ合衆国議会議事堂の襲撃かと。そのあとは滞りなくバイデン大統領への移行が進んだので、今は沈静化して見えるけど、衝撃的な出来事だった。
コメカ 改めて言うまでもないけど、議会議事堂が襲撃されるなんてことは完全な異常事態。日本ではこの出来事が正直そこまで衝撃的に受け止められていなかったような気もするんだけど、たとえばこの国の現職総理大臣を支持する人々が、不正選挙を訴えて国会議事堂を襲撃したと想像すれば、それがどれだけ途轍もないことだったかすぐにわかるはず。この出来事はいろんな角度から考えることができると思うんだけど、この連載でも話してきた、ネット環境を通して肥大化する陰謀論の問題はやっぱり大きな論点になってしまうね。
パンス ロシアの関与なんてのも言われてるけど、国内の権力闘争に支持者が利用されてると見ることができる。それとアメリカ史の底流にある陰謀論の問題。そしてそれを駆動する現代の文化。それぞれの要素が絡まり合ってるのでひと口に「これのせい!」と言うのは難しいんだけれども、TVOD的には陰謀論とカルチャーの絡み合いが気になるところ。
USインディー界で知られるミュージシャン、アリエル・ピンクが集会には参加していたと報道されて「マジか……」となったりしたけど、日本のオルタナティブな文化の現状を見てると、こういう現象が起こるのもまあ納得できる感がある。
コメカ アリエル・ピンクの件、彼の作家としての資質から考えてもあり得なくはない話ではあったわけだけど、ただここまで「ガチ」になってしまうというのは正直言って衝撃だったなあ……。カウンターカルチャーやある種のサブカルチャーというのはそもそも陰謀論的な想像力と結びつきやすい、つまり体制や既成構造を疑う・打倒するという志向が単純化されて表出しやすいところはあるわけだよね。そういう妄想的な想像力が表現としてユニークな作品に結実することも往々にしてあるわけだけど、妄想物語で現実の世界構造を説明しようとし始めると洒落にならなくなる。
現実は「物語」で説明できるほど単純な構造じゃないからね。アリエル・ピンクはパティ・スミスを「僕にとってはでたらめばっかりで、ベタで、そして陳腐に感じられる」(『ele-king』、2012年7月24日掲載「パティ・スミスは大嫌い――アリエル・ピンク、インタヴュー」)と評したそうだけど、「でたらめ」「ベタ」「陳腐」といった言葉で(発言の英語原文が読めないので意訳の可能性もあるけど)パティをけなしていた人がこうなったというのは、かなりいろいろ思うところがあるな……。
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