若者のメンズメイクがトレンドになってきている背景(SHIBUYA109 lab. 所長 長田麻衣)

2021.1.27

文=長田麻衣 編集=鈴木 梢


私はSHIBUYA109 lab.で所長として、若者の街・渋谷にあるSHIBUYA109渋谷店を拠点に活動をしており、SHIBUYA109のターゲットでもあるaround20(15歳〜24歳)の男女と接する日々を過ごしています。毎月200人の若者と接しているので、日本で一番around20と会っていると言っても過言ではありません。

若者と日々お話しするだけでなく、同じ感覚を身につけるため、TikTokやインスタグラムで最新のトレンドをチェックする日々。若者に若者トレンドを教えることも増えてきました。

日々さまざまなテーマで若者と話していると、たくさんパワーをもらいます。これは彼らの“若さ”ではなく、彼らの考え方にハッとさせられたり、自分を受け入れてもらっている気持ちになるというか。彼らは自分自身やまわりの人たちが精神的にヘルシーでいられる、生きやすい環境作りが上手なんです。

Z世代と言われる今の若者はSNSと共に生まれ育ち、SNSを介して性別・年齢・国籍までも取り払ったさまざまな価値観に触れる機会を多く持っています。またSNSのアカウントを平均2~3個は持っていて、見せたい自分に合わせてアカウントを使い分けることも当たり前。

SNSを介して「どう見られているか」はもちろん気にしているというベースがありながらも、「人と自分が違うことや、さまざまな価値観が存在することは当たり前である」という認識があり、多様性に対する受容度が高いのが特徴です。

理想の姿も細分化・多様化してるんだから、もはやひとつの価値観に捉われて誰かを否定することってカッコ悪い。嫌なら自分のタイムラインからスワイプして消せばいいじゃん。といったマインドを持っていて、自分たちが精神的にヘルシーでいられる環境作りをしている。素敵な考え方だし、大人の方々にもこの考え方をインストールしてもらいたいなと感じます。


女の子がやってることを男の子がするのって、何がいけないの?

その彼らの考え方を体現している実態のひとつが、メンズメイク。

富士経済の調査では、メンズコスメ市場は2018年までの10年間で20%伸長しており、市場としても右肩上がり。まだまだメジャーではないのですが、美容感度の高い男子が取り入れ始めています。

「メイクって女子がするものでしょ?」という考えが頭をよぎる方がいるかもしれませんが、それを問うと、若者からは「女子がしていることを男子がすることって何がいけないの?」と涼しい顔をして逆質問が返ってきます。

日々若者と接しているなかで、消費や意識において、男女での差を感じることはもちろんありますし、完全に同化していることはありません。

しかし、彼ら起点のアクションにおいて、「女だから」「男だから」という意識は薄く、そもそも性別でくくったりすること自体がナンセンスですよね。という、主張というよりも当たり前過ぎて触れられることのないスタンダードさを感じます。

そんな彼らのマインドが垣間見られるひとつの事象であるメンズメイク。今回は現役高校生でメイクも取り入れているふぶ君とお話ししながら、メイク男子の実態を解説します。

協力してくれたふぶくん(下)とのオンラインインタビューの様子

メイクをするモチベーションは「まわりからこう見られたい」理想の自分

現在高校3年生のふぶ君がメイクをするモチベーションは、まわりの人から、「キレイだな」と思われたいということだそう。

ふぶ「モテたいというよりも、性別問わずまわりの人から素敵な人だなと見られたい。カッコいい、かわいいって言われる人でいたいんです!」

今の若者はSNS世代であることから、まわりの人の目線を常に意識していて、まわりの人のフィルターを通して“自分らしさ”を自覚する傾向があります。

around20男子400人を対象にSHIBUYA109 lab.で実施した調査では、美容に関心がある男子は47.1%。美容に対するモチベーションは、「清潔感を保ちたい」「外見を整えたい」「異性にモテたい」などが挙げられています。やはり周りからの目線と切り離して語ることはできません。メイクを取り入れている大学生の男の子から過去に聞いた話では、「今は中性的なほうが女子にモテるからメイクを始めた」という声も……! ふぶ君のように「自分自身がこうありたい」という理想像を明確に持っている男の子はまだまだ少ない印象です。

普段around20男女のインタビューを重ねていると、男女での美意識の差を感じます。女子はなりたい姿が明確で、「かわいくなりたい!」「●●みたいになりたい!」など、100点かむしろそれ以上を目指したいという意欲が強く、より高みを目指している傾向にあります。

一方で男子は、見た目も気にしてはいるけれど、「清潔感がないと思われたくない」「周囲からマイナスな印象を持たれないようにしたい」など、「●●したい」というよりも「●●したくない、されたくない」という意識が強く、“平均点をキープしたい”という傾向にあります。

ふぶ君のような、先駆けてフルメイクを取り入れる男の子たちは「100点を目指したいタイプ」。理想の自分像が明確で、そこに近づくためにメイクを取り入れている人が多いのですが、平均点キープ思考の男子の中にも「クマが気になるのでコンシーラーを使っている」や「素肌をきれいに見せるために無着色の化粧下地を使用している」など、気になる部分をカバーするため、部分的にメイクを取り入れている人が見られています。

「盛れている自分」と「盛れていない自分」の認識


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長田麻衣

(おさだ・まい)株式会社SHIBUYA109エンタテイメント マーケティング戦略部 エキスパート SHIBUYA109 lab.所長。総合マーケティング会社にて、主に化粧品・食品・玩具メーカーの商品開発・ブランディング・ターゲット設定のための調査やPRサポートを経て、2017年に株式会社SHIBUY..

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