10分間の魂の叫び(『霜降り明星のオールナイトニッポン0』11月13日)
2020年を代表する言葉に「お笑い第七世代」が挙げられるだろう。本格的に日本中に広まり、第七世代が先頭を走るように活躍した今年。
代表格の霜降り明星のラジオ『霜降り明星のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)も大きな注目を浴びるラジオ番組だ。
せいやさんの報道が出てすぐの放送は、大変な話題を呼んだ。あの日のラジオが、霜降り明星が王者たるゆえんを証明していたように思える。浅はかな表現ではあるが、才能同士が結ばれたコンビだということは言うまでもないであろう。
その中で、今年私が最も心を動かされたのが11月13日の放送だ。
今やお笑い界のトップクラスに君臨する霜降り明星には、それゆえの苦悩がある。この週、せいやさんは私生活での「孤独」やメディアでの自分と本来の自分の差に苛まれていた。自分と戦い、考え尽くして力を削がれたその声は、紛れもなく本音だったと思う。
番組の途中、心の底に溜まっている思いを吐露するため、ギター弾き語りでオリジナルソングを歌い始める。魂の叫びの歌は10分以上もつづいた。次々と出てくる歌詞、否せいやさんの語りは力強く、聴いている自分までもが手に汗を握る時間となる。
「原曲キーで歌わせて」というサビはもちろん、おもしろいのに涙も出るような言葉の数々に強く胸を打たれた。歌の狭間の粗品さんのツッコミは、いつもどおりのキレ味なのに優しさが見える。
コンビとしての強さと、成功者の影の苦しみ、そしてそれを笑いにする芸人力、すべてをダイレクトに感じられたこの放送は、まさしく神回だったと思う。
文化はこうして受け継がれる(『久米宏 ラジオなんですけど』6月27日)
大好きな「ラジオ」という存在を、改めて深く考え直したいと思った放送があった。6月27日放送の『久米宏 ラジオなんですけど』(TBSラジオ)である。伊集院光さんをゲストに迎え約14年の歴史に幕を閉じた最終回は、記憶に残る放送だった。
長年ラジオに向かいつづけるふたりから発せられるラジオの魅力や特性は、どれも興味深い。SNSとテレビに対する考え方もとてもおもしろかった。
「いくら嫌われてようが仕方がない」
「どんな否定的な意見でも自分に興味を向けてくれる人のことは信用する」
久米さんが語ったこのふたつの考えが、すべてを物語っているように思えた。未熟な私は、できる限り人に嫌われないように取り繕うことがあるし、自分を否定する人は受け入れ難い。けれどこの考えを持つことができるからこそ、魅力的なラジオが放送できるのだと感じた。
悪口も、ケンカ腰のメールも、すべてを真っ向から受け入れて全力で挑む。それこそがラジオの本質ではないだろうか。誰かに嫌われようと、嘘のないその人の姿を愛してくれる人が集うから、ラジオの温かみや距離の近さが生まれるのだと気づくことができた。
ゲストコーナーの最後、伊集院さんに対して贈られた「このあともTBSラジオをよろしくね」の言葉。聴きながら震えた。こうしてラジオという“文化”はいつまでもつづくのだろうな、と思い胸が熱くなった。
たとえつらい状況でも、ラジオはありのままで放送されつづける。これは、来年も再来年も50年先も変わらないと私は信じている。ラジオを愛する人の愛の深さは底が知れない。
今年5月、10年ぶりに放送された『アンタッチャブルのシカゴマンゴ』(TBSラジオ)もそうだった。10年前に活躍していたハガキ職人が帰ってくる、そして再会する。リスナーとパーソナリティの「縁」は固く結ばれている。そして、これが大きな影響を与えてくれることもある。
せいやさんの歌は、リスナーのことも示唆していたのだろうか。ラジオから流れるパーソナリティの本音「原キー」は今日も私たちを元気にしてくれる。
奥森皐月の「クイックジャーナル」は毎月1回の更新予定です。
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