ラリー遠田が選ぶ2020年ベストバラエティ企画は、『テレビ千鳥』の「人気ブラジャー当てるまで帰れま3」

2020.12.4

2020年のベストバラエティ企画

そんな千鳥信者の私が2020年のベストバラエティ企画として推したいのは、11月15日放送の『テレビ千鳥』で行われた「人気ブラジャー当てるまで帰れま3」だ。言うまでもなく、飲食店の人気メニューを当てる「帰れま10」の堂々たるパロディ企画である。

千鳥のふたり、麒麟・川島明、かまいたち濱家隆一の4人が、ピーチ・ジョンの店内で人気ブラジャー上位3点を予想する。男性芸人が女性もののブラジャーをクイズの題材にするというこの企画は、一見するとただの悪ふざけに見えるかもしれない。

だが、観ていて思ったのは、これほどおもしろく、これほどよくできた企画はめったにない、ということだった。名企画が多いこの番組の歴史の中でも間違いなく上位に入る「神回」だった。

まず、大前提として、企画に取り組む彼らの中にいやらしい目線が一切入っていないというのがいい。ブラジャーを性的なものと見る意識が少しでも漏れてしまえば、この企画は一気に台なしになる。当然ながら彼らはそのような発言をしなかった。

この企画では、予想をした芸人自身が、そのブラジャーを身につけて出てくることになる。そのときの彼らの態度がいい。堂々としているが、少し恥じらいもあり、ブラジャーの装着感を真剣に味わっている感もある。

色白で男前の川島と濱家というゲストの人選もここで生きてくる。彼らのブラジャー姿はまっすぐ茶化し切れない色気を醸し出し、それが逆説的に笑いを増幅させる。

男性芸人たちは知恵を振り絞り、真剣に人気ブラジャーを予想する。さらに、つける側の視点に立って「値段が一緒なら気持ちがドキドキするものをつけたい」「ワイヤーが当たらないのがいい」といった具体的な意見まで述べる。SNSでは女性視聴者からも「参考になった」「買いたくなった」という感想が出てくるほど、彼らのブラジャー選びの熱意は本物だった。

『テレビ千鳥』ではこれまでにも女性用下着を扱う企画がしばしば行われてきた。松茸をパンティで包んでせいろに入れて「松茸のパンティ蒸し」を作ったり、ブーメラン状に凍らせたパンティを投げたら戻ってくるのかどうか実験したりしてきた(番組を観ていない人には何を言っているのかよくわからないと思うが、安心してほしい。番組を観ていてもよくわからなかった)。

これらの企画に共通するのは、性的な要素を排除して、徹底してバカバカしさだけを追求する姿勢である。そして、この姿勢こそが、今の時代に最も必要とされていることではないか。

世の中の空気は変わっていて、人々の意識もどんどん変化している。容姿イジリや過激なリアクション芸など、かつて通用した笑いが時代遅れの笑いになっていく。それ自体は否定しないし、必然的なことであるとも思う。

だが、近年のネット社会の恐ろしさは、すべてが「0か100か」で判断されてしまいがちなことだ。本当はその間に広大な領域があるはずなのに、そこに目が向けられず、「ダメなものはダメ」といった極論が横行しやすい。その空気に一方的に流されていくと、笑いを作るための遊び場がどんどん狭くなってしまう。

不要不急のものが排除されがちな世の中だからこそ、私たちは慎重に考えて、守り抜かなければいけない。パンティを凍らせてブーメランにする自由を。男性芸人がブラジャーをつける自由を。

バカバカしさと実用性とメッセージ性を絶妙なバランスで兼ね備えていた「人気ブラジャー当てるまで帰れま3」こそが、2020年のベストバラエティ企画にふさわしい。お笑い界の天下人・千鳥はいつだって最高に最低だ。

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