世界をおもしろくするには、千鳥のふたりが持つ“目”が必要だ。(ラリー遠田)

2020.2.11

文=ラリー遠田 編集=鈴木 梢


「毎日、暗いニュースばかりでつらい」「日常がつまらない」――日々、多少なりそう感じている人はいるだろう。でももしかすると、見る“目”を変えることで、見える世界はまったく変わってくるかもしれない。

お笑い評論家のラリー遠田が注目するのは、『相席食堂』(朝日放送)でMCを務めるお笑いコンビ、千鳥のふたりが持つ“目”だ。ふたりがロケの中で見たものを、どうおもしろく切り取るか。この番組はそこにかかっている。ふたりの持つ類稀なる力から、我々が日常を少しでも前向きに楽しむためのヒントを探る。


世界からおもしろさを切り取る魔法の目

印象派の画家であるポール・セザンヌは、同じく印象派の巨匠クロード・モネについて「モネは単なる目に過ぎない。しかし、なんという目だろう!」という称賛の言葉を残した。

モネは移りゆく光を捉えた絵を描くことを自らの主題としていた。モネの優しい色合いの温かみのある風景画などを見ていると、単にきれいだとか絵がうまいというだけでなく、「モネの目には風景がそういう風に見えていた」ということ自体に驚かされる。画家は描くことのプロフェッショナルである以前に、見ることのプロフェッショナルなのだ。

『相席食堂』を見ていると、セザンヌの言葉になぞらえて「千鳥は目に過ぎない。しかし、なんという目だろう!」と言いたくなる。世界からおもしろさを切り取る魔法の目。しかも、その目は4つもある。

『相席食堂』の企画自体はきわめてシンプルだ。毎回さまざまなタレントが地方に出向いてロケを行う。そこで一般人と相席をして一緒に食事をすることがひとつの課題となっている。千鳥のふたりは、スタジオでそのVTRを見ながら、ところどころで「ちょっと待てぃボタン」を押して映像を止めて、ツッコミを入れていく。

この番組の何がそんなにおもしろいのかというと、千鳥の目線がおもしろいということに尽きる。千鳥は言わずと知れたロケの達人だ。彼らがロケの達人だというのは、単に素人イジリがうまいとか、何かを食べたときのリアクションがいいとか、そういう次元の話ではない。与えられた状況において、いかに笑いを発見し、笑いを生み出すかということにかけて、彼らの右に出る者はいないのだ。

本来、ロケに正解はない。正解はないはずなのに、千鳥は正解を見つけ、ときには自らの手でゼロから正解を作り出してしまう。大悟が服を着たまま海に飛び込み、ノブが「どういうお笑い!?」という名ツッコミを放ったあの場面が典型例だ。千鳥はロケの腕前を評価されたのがきっかけで東京で遅咲きのブレイクを果たした。

そんな彼らにとって、ほかのタレントがロケをする様子は隙だらけに見える。普段あまりそういう仕事をしていないタレントの場合はなおさらだ。ロケのプロである千鳥が彼らのミスを逐一イジって、ツッコミ倒していく。それがとにかく痛快でおもしろい。

千鳥のツッコミに笑いながら、視聴者である私たちは無意識のうちにロケの作法というものを学習していく。うまいロケとはなんなのか、優秀なロケタレントとはどういうものなのか、というのを自然に学ぶことになる。

まさに大空を羽ばたく千鳥の如く、高い視座から世界を見ることができるようになる。ロケが行われている現場から、おもしろさだけを的確に拾い集めていく芸人の視点。それだけをピンポイントで見せてくれる番組というのはなかなかない。

世の中が退屈だと感じられる理由

そもそもロケとは何か? ロケとは、一般人が生きる「日常」にテレビという「非日常」が割り込んでいくことだ。テレビ界、芸能界という異世界からの使者であるタレントが、人々が暮らす生活圏に唐突に降りてくる。そこに生まれるわずかな軋轢を、違和感を、千鳥は決して見逃さない。

千鳥の目は正確ではあるが、決して意地悪ではない。うまくいっていないところを指摘することはあるが、悪いものを悪いままで終わらせることはない。むしろ、そこを厳しく突いて笑い飛ばすことで、気まずさや噛み合わなさまでも笑いに変えてしまう。

『相席食堂』を見ると、深夜のお笑い番組などを熱心に見ているようなお笑いファンが普段は見過ごしているような高齢者向けのロケ番組や旅番組も、実は見方によってはおもしろくなるのではないかと思えてくる。

気分が落ち込んでいる人間は「世界は退屈だ」「世の中にはおもしろいことが何もない」などと思いがちだ。だが、それは間違っている。世の中が退屈だと感じられるのは、自分が退屈な目しか持っていないからだ。世界をおもしろくするには、世界がおもしろく見える目を持つしかない。

日常がつまらないと感じている人は、一刻も早く『相席食堂』を見たほうがいい。大阪のローカル番組だが、「TVer」や「Amazonプライム・ビデオ」などを使えばほかの地域でも視聴可能だ。

もっと言えば、自分の意識の中に『相席食堂』のスタジオを設置すれば大抵のことは乗り越えられる。嫌なことや腹立たしいことがあったら、頭の中の「ちょっと待てぃボタン」を押してみよう。千鳥のふたりが手を叩いて笑っている。さあ、人生という楽しいロケの始まりだ。


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ラリー遠田

(らりー・とおだ)1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わ..

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