「史上最高の日本シリーズ」の衝撃を今。これぞプロフェッショナル

2020.11.30
オグマナオト

11月25日、工藤公康監督率いるソフトバンクがプロ野球日本一に。コロナ禍の中で行われた試合に拍手を送りつつも、一抹の寂しさも感じたスポーツライター・オグマナオトが同好の士に読んでもらいたい一冊。今こそ「史上最高の日本シリーズ」を。

激闘!西武ライオンズVSヤクルトスワローズ

ソフトバンクの日本シリーズ4連勝&4連覇で幕を下ろした2020年のプロ野球。開幕できるかどうか……という段階があったことを考えれば、そもそもペナントレースが120試合もできたこと。その上での日本シリーズであったことをまずは喜ぶべきはず。

だが、どうしても消化不良感はある。私のように特定球団のファンではなく、ただただプロ野球を楽しみたい、という人間からすると、日本シリーズは「どちらが勝ったか」、以上に、「どこまでもつれるか」を味わいたいから。その意味で、2年連続での「同一カード4勝0敗」は、初冬の空気感のようになんとも寂しい。

そんな今こそ堪能したい本がある。日本シリーズの開幕前日に発売されたばかりの『詰むや、詰まざるや森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(長谷川晶一/インプレス)だ。

キツネとタヌキの化かし合い

本書は、1992年と93年にわたって激闘が繰り広げられた西武ライオンズとヤクルトスワローズの日本シリーズについてを描いた、スポーツノンフィクションど真ん中の作品だ。

両シリーズとも第7戦までもつれにもつれた、これぞ日本シリーズ! 唸りたくなる戦い。帯にある「史上最高の日本シリーズ」というフレーズは決して誇張表現ではない、ということは、40代以上の野球ファンならばよく覚えているはずだ。

著者・長谷川がそんな伝説の日本シリーズを考察するために話を聞いた人数、そして顔ぶれを知るだけでも、この本のすごさがわかるというもの。

西武なら森祇晶監督を筆頭に、石毛宏典、辻発彦、秋山幸二、清原和博、工藤公康、渡辺久信、伊東勤、デストラーデ……。ヤクルトならば野村克也監督のほか、古田敦也、池山隆寛、広沢克己、飯田哲也、川崎憲次郎、高津臣吾、岡林洋一、荒木大輔……という錚々たる顔ぶれがふたつの日本シリーズを述懐していく。取材対象者はこれでもまだほんの一部だ。

それぞれでも単著が書けそうな面々が、ひとつのプレー、1球の攻防の背景を振り返ることで、ふたつの日本シリーズを追体験していくことができる。

たとえば、93年シリーズの開幕戦。西武の攻撃では初回から「1イニング2死球」という波乱の幕開けとなるのだが、この場面だけでも、死球を受けた辻発彦と石毛宏典、投げた荒木大輔、捕手の古田敦也の4人の視点から、その理由と背景を掘り下げていく。

贅沢なまでに多角的で多層的。それほどふたつの日本シリーズ自体が多角的で多層的だった証左でもある。そんな味わい深い日本シリーズを演出したのが、西武・森祇晶監督とヤクルト・野村克也監督というふたりの名将だ。

野村は「ペナントレースが山なら、日本シリーズは川のようなものだな……」と語り、森は「何も、いろいろ手を打つことだけが戦術ではない。何もしない戦術、《不動》というのも立派な作戦なんだね」と振り返る。「キツネとタヌキの化かし合い」とも称された両監督による戦術論・戦略論もまた興味深い。

投げられるのかどうかではない。投げねばならぬのだ

少し話が逸れるが、先日、イチローが「メジャーリーグは、どこまで飛ばせるかコンテスト。野球とは言えない。(高校野球は)おもしろいですよ。頭使いますから」と、日米の野球観の違いを評したことがニュースになっていた。

ならば、日本最高峰の舞台で、まさに頭を使ったプレーの応酬だった92年、93年の日本シリーズこそ、やはり「史上最高」の戦い。そう言いたくなる理詰めのようなプレーが本書ではいくつも登場する。

絶対王者に挑むセ・リーグ勢の状況と近い


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