吉野家がかわいい? うるせえな
先日、めちゃくちゃかわいいセンス系の女芸人の後輩と話す機会があった。彼女は、まだ芸歴2年目のアパレルの店員をしながら芸人もしているという、おしゃれ女芸人。
私がその子に、“男芸人の後輩は吉野家連れて行くけど、女だけで入ると恥じる子も〜”と、居酒屋前の吉野家のことを話すとその子はこう言った。
「えー! 私めちゃくちゃ行きますよ! トッピングチーズしちゃうし、アボチー牛丼めちゃくちゃかわいいですよ!」
“うるせえな”
そう思った。
うるせえなと同時に、吉野家に行くときは腹を満たすことにいっぱいいっぱいで、吉野家のトッピングに、チーズがあることを知らなかった自分を恥じた。トッピングまで見る余裕が私にはなかったのだ。アボチー牛丼も、もちろん知らなかった。
え、かわいい
その後、ひょんなことから吉野家に行った私は、迷うことなくアボカドとチーズが乗っかった牛丼“アボチー牛丼”を頼んだ。
ドキドキしながら待つ。
八重歯のかわいい小柄な女性店員さんがアボチー牛丼を持ってやってきた。
「え、かわいい」
悔しながら、小声でそう呟いてしまった。
アボチー牛丼まじかわいい。アボカドにチーズ。見栄えも抜群。牛丼にトロトロのアボカドとチーズが乗っている。まずいわけがない。
うま過ぎ!!
女の子はもちろん絶対好きだし、男がこのアボチー牛丼を食べていたら、なんかおしゃれじゃない?
ひと昔前のチーズ牛丼を頼む男子を“イケてない男子”的に扱う時代は、もう終わった。
“おしゃれ男子”だ。
こんなにおしゃれな丼を、しかも低価格で食べられるなら、女だけで入るのも何も恥ずかしくない。一気にイメージが変わった1品だった。案の定、女性が支持する牛丼トッピング第1位が“チーズ”とのこと。
まだお酒が飲めなかったころ
私は、吉野家に深い思い入れがある。
お笑い養成所入りたてのこと。ワタナベコメディスクールという養成所に通っていたのだが、ひとつ上の先輩が、突然私たちの授業終わりの教室のドアを開けると、「今日飲みに行ける人ー?」と聞いてきた。
その先輩も、まったく売れていない。行ける同期何人かが手を挙げたが、当時17歳だった私は「酒飲めないから行けないです」と断った。
するとその先輩は「じゃ、吉野家まで一緒に行こう!」と、吉野家に連れて行ってくれた。それが始めての居酒屋前吉野家だった。
ま、居酒屋には行かなかったから、シンプル吉野家だけど。
後日、居酒屋まで行った同期に聞くと、その後の居酒屋はすべて、その先輩が奢ってくれたらしい。もちろん吉野家も。
おそらく、10人以上はいた後輩全員を奢ったその先輩。金節約のための、居酒屋前吉野家。一見ケチくさく聞こえるけど、自分もまったく売れていないのに、後輩には金を払わせずに、お腹いっぱいにさせてあげたいという精神が、本当にかっこよかった。
“こういう先輩になる”
私はそのころからずっとそう心に誓っている。
私には吉野家という強い味方がいる
もちろん、20歳になってすぐ後輩を居酒屋前の吉野家に連れて行って奢った。私には吉野家という強い味方がいるから、金欠でも安心して後輩を飲みに連れて行ける。アボチー牛丼があるから、女芸人の後輩も今度連れて行くんだ。
私があのとき感じた、かっこいい先輩の姿を後輩にも見てほしいから、私は後輩には金を払わせない。
まあ、後輩っつっても宮下草薙は売れ過ぎだから、全然奢ってもらうけど。
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