“たぶん自分は見放される側になるのだろう” 『自殺』の末井昭が考える「命の選別」と「安楽死」

2020.9.17


女性は自身の殺害を「依頼」した

話は変わるが、7月23日に京都府警は、仙台市と東京都の医師ふたりを逮捕した。全身の筋肉が動かなくなっていく筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した京都市に住む女性から頼まれ、薬物を投与してその女性を殺害した容疑だ。

逮捕されたふたりの医師は、大久保愉一容疑者と山本直樹容疑者で、共に40代である。大久保容疑者は宮城県名取市でクリニックを開業するかたわら、精神科医として病院にも所属しアルバイトの医療行為もしていたらしい。山本容疑者は、品川区でED治療のクリニックを開業している。

ふたりは、『扱いに困った高齢者を「枯らす」技術』という本(電子書籍、現在販売中止)を共著で出している(山本直樹・著、mhlworz・編集となっている)。タイトルからもわかるように、扱いに困った老人を証拠も残さず消す方法を書いた本らしい。

扱いに困った高齢者を「枯らす」技術
『扱いに困った高齢者を「枯らす」技術』山本直樹 著/mhlworz 編/電子書籍(現在は販売中止)

被害者の女性は林優里さんといい、ツイッターで大久保容疑者と知り合い、安楽死に関するやりとりを重ね、自身の殺害を依頼したらしい。その代償として、山本容疑者の口座に130万円が振り込まれていた。

亡くなったのは昨年の11月30日だ。その日の夕方、ふたりの医師は林優里さんの住むマンションを知人を装って訪れ、付き添っていたヘルパーが別室に入ったところで薬物を投与した。滞在時間は10分程度だったらしい。

「命は尊い」と言いつづけなければいけない

7月26日の朝日新聞に、患者や家族でつくる「日本ALS協会」近畿ブロック会長の増田英明さん(定年退職後ALSを発症。現在76歳)に事件について尋ね、増田さんからメールで送られてきたその返信が載っていた。

(略)
生きることが当たり前の社会で、私たちは常に生と死の間におかれています。誤解して欲しくないのは、彼女の意思表明は、生きたいと思ったからこそのものであること、そして事実生きていたということです。安楽死という希望は彼女が作り出したものではなく、社会が作り出した差別の中で生み出された彼女の叫びなのだと私は思います。
(略)
きっと社会は、安楽死や尊厳死の法制化に向けて議論を再開するでしょう。そして、私はそれに反対することになります。こうやって同じALSなのに、さも私の存在や主張が彼女を否定するかのように受け取り、彼女と私をわけていきます。そうして、私や彼女、ALSの人が抱えている問題や苦悩を覆い隠していくのです。私も彼女も同じです。ちゃんと私たちが直面している苦悩に、現実に目を向けてください。彼女を死においやった医師を私は許せません。そしてその医師を擁護する医師や医療者、社会があるとするなら、その社会自体が否定されるべきです。
相模原(無差別殺傷)事件で経験したことが、優生思想が脈々と息づいています。
(略)

安楽死は患者の「生きたい」否定する 定年後発症の男性(朝日新聞デジタル)

僕は「相模原障害者殺傷事件」と「ALS患者嘱託殺人事件」、このふたつの事件に対してどう考えればいいのか迷っていた。しかし、増田英明さんの文章を読んで、考えの道筋が決まったと思った。

コロナ禍のなか、大勢の人たちが亡くなっていく映像を見たりしているうちに、僕の中で「命は尊い」という言葉が、何か白々しくなっていた。それは内なる植松聖が大きくなることでもある。だから、たとえ白々しくても「命は尊い」と言いつづけなければならないのだ。みんなのその声で、「命は尊いものだから、すべての命を守ることを最優先とする」ということが国の目標になり、社会の常識になったとき、植松聖なるもの、大久保愉一なるもの、山本直樹なるものが消えていき、みんなが安心して暮らせる、希望が持てる社会になるからだ。


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Written by

末井 昭

(すえい・あきら)編集者、エッセイスト。『ニューセルフ』(セルフ出版)、『写真時代』(白夜書房)、『パチンコ必勝ガイド』(白夜書房)などを立ち上げ、編集長を務める。『自殺』(朝日出版社)で第30回講談社エッセイ賞を受賞。1982年の刊行以来、さまざまな出版社から文庫化され、版を重ねている自伝的エッセ..

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