ツッコむというのは参加すること
第3話後半、IT界の超大物ジョン・ハワードが登場して3憶ドル出資する発表で株価が上がっていく場面。
湯飲みを蹴割って悔しがる伊佐山を映し、株価が上がっていくグラフを映し、「よ──しもっといけ───!」と拳を振り上げるところを映し、「本当に銀行に勝てるかもしれないですね」「いけ──!」と盛り上がり、電脳雑伎集団サイドの怒る顔を映し、まだ株価が上がっていく様子を映し、「どんどんどんどん上昇しています」の声、あわあわする伊佐山と、短くシーンを割って、複数の状況を観せる。取引終了になるまで株価は、徐々にゆっくりと上がっていく。
ここもリアリティを重んじれば、いきなりストップ高になるべきだろう。
だが、そうしない。徐々に変化する状況を観せて、ギリギリでゴールに達成させる。
何がどうなれば勝ちか。それをはっきりと示して、そこに向かって進んでいく。しかもゴールできるかできないかギリギリの状況を作り、ギリギリで勝つ(もしくは負ける)。そこに参加している意識があれば、人はスリルを感じるのだ。
ツッコミどころも、わざと残しているのかもしれない。ツッコむというのは参加することだからだ。
市川猿之助、香川照之、尾上松也、片岡愛之助、歌舞伎役者の出演が多いのも意図的だろう。「待ってました!」と声をかけたくなる。参加感が生まれる。
「恩返しです」「お・し・ま・い・DEATH!」「施されたら施し返す。恩返しです」「詫びろ、詫びろ、詫びろ、詫びろ、詫びろ、詫びろ、詫びろ、詫びろ」「お前の負け~」「債権放棄じゃダメなんですか?」「やばいどころじゃない、相当めちゃくちゃ激しくやばいぞこれは」「死んでも嫌だね!」「土下座野郎!」「やられたら、やり返す。倍返しだ!」
大声の強烈なセリフも、観る側のツッコミを誘い、参加させる仕組みだ。
実際に、放映時間になると、#半沢直樹は、毎回ツイッタートレンド1位に上がってくる。
今では当然となった配信による見逃し視聴も、ダイジェストしかやらない。放送時間に観て、ツイッターでツッコんで、みんなで参加している熱狂を生み出す作戦だろう。
ルールの明確な提示、ギリギリで勝ち負けが決まる過程をじっくり観せる方法、参加感の出し方。この3つのポイントを抜群にうまく組み合わせて、『半沢直樹』は良質なゲームが与えるスリルをドラマでガッツリ表現した。仕かけた製作陣は天才だ。
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