一見ポップでもどこかが突き抜けていることの大切さ
自分が音楽を始めたころ、2000年代中盤はいわゆる「関西ゼロ世代」なんて言葉がひとり歩きしていた時代で、それこそベアーズなんかを爆心地として方々でオルタナティブな音楽が隆盛を極めていた。少し前に某雑誌で「ゼロ世代特集!」なんてものがあり喜び勇んでイルリメさんのCDをレコメンドしたのだが、普通にほかのミュージシャンが2000年代のJ-POPを挙げていて拍子抜けしたのを思い出す。
少し年上のオノマトペ大臣がそういった音源をたくさん持っており、いろいろと教えてもらった。それらのライブが多く行われていた場所でいえば、「新世界ブリッジ」に行ったときはこんな場所が運営されていいのかとメチャクチャ驚いた記憶がある。逆にベアーズは驚くほどシンプルなライブハウスで驚いた。
当時「ゼロ世代」と言われていたアーティスト周辺の音楽は変であったりやかましい音楽が多かったのだが、それらの音楽に妙に惹かれたのを覚えている。よくわからない委託販売のCD-Rなんかを買って、よくわからないままに聴いていた。そこから辿っていくように山本氏の音楽なんかにも触れていくこととなる。活動拠点や出生地で人を判断するのはよくない……とか思いつつも、関西的な音源から感じるパワフルな雰囲気を不思議に思っていた。
神戸で自分の作った音楽をいくつかの場所に持って行ったりしたはよいものの、ジャズをサンプリングしていない、だったりHIPHOPのレガシー観に沿わない、みたいなことを言われることが多かった(神戸にも解放的なマインドの人がいることはのちにわかる。運が悪かった)。自分はHIPHOPのなんでもありなところがカッコいいと思っていたのに……と肩を落とすことが多かったのだが、聴きみのあるものやまさしくレガシーから逸脱しようとするゼロ世代や、古くからある大阪を中心としたシーンの音楽には影響を受けたし、それらを見て自分も好き勝手やろうと思うことができた。
群れずにひとりやひとつで成り立っている、自分の美学で音楽をやろうとしている人のことはいいと思えた(別にHIPHOPのレガシーも自分の意思でそこを深く掘っている人はカッコいい)。これはネットで、ひとりひとつのページを持って発信できると知ったときも近い感覚を覚えた。
このジャンルをやっているから……ではなく、その人がやっていることが大事なのである。山本さんの「(大阪は殿様がいなくて)商売人が一国一城のあるじ」という言葉も肯ける。歪(いびつ)であることを恐れることなく、自分で決めることを推奨してくれる風土の連鎖が大阪や関西周辺のシーンにはあると思う。そもそもこれは音楽なのか?とか思ってしまうようなよくわからないものにも耳を傾けるし、機会を与えてくれるのである。そして、これらの出来事は自分の中にある極端さを見つめるきっかけになったし、一見ポップなものでもどこかが突き抜けていることの大切さを考えるようになった。
最近よく言われている「type beat」という言葉もそうだが、音楽において人に似ていることが価値になってしてしまうことがしばしばある。メジャーにいて数値的なものに囲まれていると自分も売れなきゃと思ったり、シティポップやチル系の〇〇とか言われると、ついつい自分をそういったオシャレな人間だと錯覚してしまったり(笑)。
ただやはり音楽を作る一番の理由は自分を慰めるためにあって、それは誰かのためではないと考えている。そして、経験上そうして作られたものはおもしろい。そういったことを確認したいときに、このような音楽を聴く。
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デジタルミニアルバム『TBEP』
2020年3月27日配信
ダウンロード、ストリーミングはこちら -
12inch Analog『TBEP【完全生産限定盤】』
2020年8月19日発売 3,000円(税別) ワーナーミュージック・ジャパン
[SIDE-A]
01. 陰謀論
02. MOVE YOUR FEET / AS YOU LIKE
03. MOVE IT
04. HOT TOUCH
[SIDE-B]
05. SOMEBODY TORE MY P
06. クラブ
07. Along the Coast(bonus track)関連リンク
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12inch Analog『I Can’t Do It Alone【完全生産限定盤】』
2020年8月19日発売 2,000円(税別) ワーナーミュージック・ジャパン
※2020年8月19日から配信もスタート01. I CAN’T DO IT ALONE
02. I CAN’T DO IT ALONE(Instrumental)関連リンク
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