マヒトゥ・ザ・ピーポー、『全感覚祭』で実現したい経済の話

2020.2.5

文=山本大樹 撮影=橋本美花


GEZANの自主レーベル「十三月」が主催する入場無料・投げ銭制の音楽フェス『全感覚祭』は、2019年秋の開催で6回目。入場無料・投げ銭制に加え、昨年は“フードフリー”も掲げ大きな話題となった。

GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーが信じているのは、イベントの価値をジャッジする参加者一人ひとりの意思と想像力だ。「価値を自分でジャッジする意思を取り戻そう」と話す彼が、『全感覚祭』で実現したいことを改めて聞いた。

※本記事は、2019年6月25日に発売された『クイック・ジャパン』vol.144掲載の記事を転載したものです。


意思をもってお金を使いたい

――音楽や小説などの表現活動にかかる「お金」について、普段考えていることを聞かせてください。

マヒト 当たり前だけど、生きていかないと表現もできないし、今飲んでる水だったりとか、小説を書くにしてもパソコンで打ってたりとか、そういうのが全部、お金と絡んでいるっていうのも理解してるんですけど……。ただ「安定した生活をするにはこれくらい」とか、そういうお金の線引きや評価みたいなものが、まだ古い形のままだと感じてて。これだけ世の中の価値観が多様化してるんだから、もっとオリジナルな線引きが出てきてもいいのになって。

――『全感覚祭』での投げ銭制も、そうした疑問が出発点になっているのでしょうか。

マヒト バンドだってもちろんタダじゃないし、いろんな経費とかが付随してくるのはわかってるんです。この前、ある人から「今後もイベントをつづけていくなら、“経済”と手を組まないと」っていう話をされて。でも俺、本当に今年のことしか考えてないんですよ。もしダメになったらそれが時代のジャッジだと思ってて。投げ銭っていうきれいな概念が成立するのかしないのかっていうのを試してるところがあるから。だからイベントに来てる人たち一人ひとりに、一旦足を止めて考えてほしいんですよね。この場所が、この空気が、どんなところから生まれてるのかっていうのを。

――「経済と手を組む」というと、たとえば企業に協賛を募るというのもひとつの手ですよね。

マヒト 自分の中にないんですよね、経済っていう言葉自体が。ちょっとスピリチュアルな話になっちゃうんですけど、そこに居合わせた人との一対一の感覚で「想像しよう」っていう、その一点だけでつづけてきてるんです。今のところそれで成立してるから、既存の社会のルールに照らし合わせて考える必要はないなと思ってて。子供のころの文化祭とか体育祭って、別にお金が発生してたわけじゃないじゃないですか。でも、「頑張ったのになにも返ってきてない」なんて思わなかったし。

――人間のすごくピュアな部分を信じているんですね。

マヒト 青臭い話ですけど、去年の全感覚祭で、小さい女の子が一緒に来てたお父さんに「自分がいいと思ったら、それを気持ちとして箱に入れるんだよ」って、投げ銭の仕組みを教わってたんです。そしたら15分後くらいに赤い花を摘んできて、投げ銭ボックスに入れたんですよ。赤い花もらったってなんの経済的価値もないけど、やっぱりうれしかった。ほんとは経済とか政治って、そういうところからはじまってるはずなんですよ。魚いっぱい獲れたからみんなでシェアしよう、とか。本来そういう場所からはじまったはずなのに、資本主義が加速して、もうすごいエクストリームなところまで来てる。

――本来のはじまりからは、ずいぶん遠く離れてしまいましたよね。

マヒト もう、お金で感謝とか感動を表すこともほとんどないし。ライブハウスで払う2500円だって、別にバンドに感謝して払うわけじゃなくて、ただ値段が決まってるから、もう無の感情で払ってますよね。全感覚祭はいくらでもズルできるけど、そういう中で払う2500円って、自分の意思が入ってるじゃないですか。俺はやっぱりそのお金が同じ価値だとは思えなくて。同じ数字でも、そこに絡みついたエネルギーの総量が違う気がしてて。こんなの経済の話じゃないですよね、まったく。

――今の経済が成り立つ前の、お互いの顔が見える範囲に社会があった時代の感覚に近い気がします。

マヒト たとえばこの場にいる5人で鍋をやるとして。ビールがなくなりそうだったら、遅れてきた人に買ってきてもらう。で、最後に計算するときにひとり2000円ってなったら「お前はあとから来たから1000円でいいよ」とか。5人だったらそういうのってある程度できるじゃないですか。でも、それが社会みたいな大きな集団になると、ルールが必要になってくる。全感覚祭は、5人で鍋やってるのが2000人とかになっただけの感覚なんですよね。だいたい想像つくじゃないですか、「これくらいは払おうかな」とか。そういうやり方で、無の境地で2500円払うんじゃなくて、感情とか時間とかエネルギーとか、そういう価値を自分でジャッジする意思を取り戻そうっていう。それができたら楽しくなりそうだな、みたいな。

――普段の生活でお金を使うときから、そういう感覚なんですか?

マヒト なにに使ってるんだろうなあ、俺。まあなんとかなるっしょ、みたいな気持ちがずっとあって。まあこんなこと言えてるのも今だからかもしれないですけどね。3年後くらいにはもうほんとに「間違えた……真っ赤っかや」みたいな(笑)。でも、そうなったらなったでなんとかなるんですよ、絶対に。


マヒトゥ・ザ・ピーポー
ミュージシャン。2009年、大阪で結成されたバンド・GEZANで作詞作曲を行う。2019年5月、自身初となる小説『銀河で一番静かな革命』(幻冬舎)を発表した。初のドキュメンタリー映画『Tribe Called Discord: Documentary of GEZAN』が公開中。


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山本大樹

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山本大樹

(やまもと・だいき)編集・ライター。1991年生まれ、埼玉県出身。明治大学大学院にて人文学修士(映像批評)。編集プロダクション勤務を経て、2019年に独立。現在『クイック・ジャパン』外部編集・ライターのほか、『BRUTUS』、『オードリーとオールナイトニッポン』シリーズ、『三四郎のオールナイトニッポ..

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