緊急避妊薬の問題から考える 「変わらない日本」を変える女性たち(古田大輔)

2020.8.3

産婦人科医の66%が薬局での販売に賛成

昨年5月、産婦人科医の有志9人が日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会に所属する559人から回答を得たアンケートでは、前出の前田副会長とは違う見解が聞かれた。

「薬局で買えるようになるのが望ましいか」の質問に「非常にそう思う(30%)」「そう思う(37%)」という結果だったのだ。

女性の権利が脅かされている

前田副会長の言う、安易な考えとはなんだろう。

毎回、避妊せずにセックスをして薬局で買った緊急避妊薬を使う女性が出てくるということだろうか。いや、そんな人ほとんどいないだろうし、いたとしたら、それはそれでその人の考えだ。

男性が緊急避妊薬があるからと避妊を嫌がるようになるということだろうか。だとしたら、それは男性側の問題だ(そういう身勝手な男とは即刻別れたほうがいい)。

そして、イギリス、スウェーデン、ドイツ、フランス、カナダ、オーストラリア、アメリカでは、そういう「安易な考え」で社会問題が広がっているということだろうか。

リプロダクティブ・ヘルス・ライツという概念がある。個々人が安全な性生活を送り、妊娠や出産においても、個人の自由と健康が尊重される権利があるという考えだ。

国際的には1994年の国際人口開発会議で採択された「カイロ行動計画」で定義され、日本では2000年に男女共同参画計画に盛り込まれた。

それから20年、日本では未だに緊急避妊薬が薬局で手に入らず、女性のリプロダクティブ・ヘルス・ライツは脅かされている。

そして、薬局販売を求めるオンラインキャンペーン(「アフターピル(緊急避妊薬)を必要とするすべての女性に届けたい!|change.org」)が立ち上がり、8万件を超える署名が集まり、NHKの番組が話題になって関連する言葉が立てつづけにトレンドに入っても、この1カ月の間に、「緊急避妊薬」を見出しに取った記事を書いた新聞社・通信社は東京新聞、共同通信ぐらいだ。

日本政府の動きは遅過ぎないか

日本政府は7月21日、指導的な立場における女性の割合を2020年までに30%にするという「202030」の計画を断念し、「20年代の可能な限り早い時期」へと達成を先送りにした。

なんなんだ、その曖昧な計画は。やる気はあるのか。

女性たちは怒って当たり前だ。今回の件で女性たちが声を上げたのは、緊急避妊薬だけの問題ではない。リプロダクティブ・ヘルス・ライツ、さらに言えば、女性の権利がここでも軽んじられていると感じているからだ。

男性として、申し訳なさを感じる現状だが、希望を感じていることもある。

虐げられた者が、社会を変える

月に1、2回、大学にゲスト講師に呼ばれることがあり、主に報道やデジタルメディアについて話をする。そのときの女子大学生たちの社会的な関心の高さ、質問の鋭さだ。

「ジェンダー・ギャップ指数」や#Metooなどの運動によって、自分たちが置かれている状況を知り、同年代や少し上の世代がインターネットで発信する情報に触れ、若い女性たちの政治意識は確実に高まっている。

前回のQJWebの記事で僕は欧米と違い、日本は若い世代の投票率が低いままで、若者に人気の著名人も政治的な発言が少ないと指摘した(「政治に対して声を上げない若者」を作ったのは誰か――都知事選と出てこないキッズ)。

出てこようとしている「キッズ」がここにいる。

黒人が立ち上がった公民権運動やBlack Lives Matter、LGBTQによるプライドなど、虐げられた者たちが変革の原動力となり、より自由で公正な社会を作り上げてきた。

日本でその力となるのは、女性たちなのかもしれない。

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