「#うたつなぎ」が持つ、私の「表現」とは正反対の性質(なみちえ)

2020.5.22
クイックジャーナル なみちえ

文・イラスト=なみちえ 編集=田島太陽


4月初旬から、ツイッターを中心に流行している「#うたつなぎ」。自身が歌う動画をアップし、次に歌う人を指定する「バトン」形式の企画。菅田将暉、高橋優、和田唱、TOSHI-LOW、ホリエアツシ、片平里菜、崎山蒼志、アイナ・ジ・エンドなど、ジャンルや年齢を問わず多くのミュージシャンによるリレーが行われてきた。

ラッパーで、着ぐるみを制作するクリエイターのなみちえの元にも、そのバトンが回ってきた。しかし彼女は「波に乗る」のではなく「波を作る」ことを考えている。「#うたつなぎ」が持つメリットやデメリット、そして自分の「表現」について綴る。

SNSでの「バトン」メリットと弊害

こんにちは! 私は東京藝術大学を首席(家族にえらいって言われたがTinderではモテ要素ではない)で卒業し、4月から家にいます。生きるというLIVE活動しています。(家族にえらいって言われる)どんな肩書きがあろうが、それを振り捨ててでも懸命に生きていきたい。と思っておりますので今月もいつもよりゆるやかに寿命を縮めておりま~す。

今回言及していきたいのが「#うたつなぎ」。

『ORICON NEWS』で5月6日に公開された「同調圧力? 芸能界も“バトン疲れ”、SNSで求められる“繋がり”の弊害」という記事が、SNSで繰り広げられるバトン系の行事のメリットと弊害について考えるキッカケになりました。

私は、「おまえをにがす」という曲でバズって、肩書きをラッパー/アーティストとすることが多くなり、去年1年間は卒業制作のかたわら、たくさんの音楽家と友だちになることができました。

(この「アーティスト」って肩書き、音楽や芸能などをまとめて「アーティスト」と大きく括られがちですが、私は自分自身がより本質的な芸術家:アーティストでありたいと思って使用しております)

就職活動も特にしていなかったので4月からフリーランスでの仕事が待ち受けているはずでしたが、コロナによりほぼなくなり(今こうやって文字書いているのは家でできるから助かる)、幼稚園3年→小学校6年→中学校3年→高校3年→大学4年と19年間の継続的な教育からの脱却!

仕事もないし、4月から自由だ~と思い、重い足枷がなくなった状態の私がツイッター見ると頻発していたのが「#うたつなぎ」でした。

私の好きな表現は「#うたつなぎ」とは正反対

最初の印象は

・ケータイ時代のチェーンメール思い出した
・あ~、インスタグラムでしりとりも流行ってたな
・小学校のときの連絡網みたいだ
・この音楽はお金にならなさそう
・回覧板っぽい

そしてもちろん、たくさんの依頼が私にも来ました。

依頼が来たことで、自分が今までどういう思いで表現をして来たかを再確認することができました。そこで得た気づきがこちら。

・私は長いスパンで時間をかけて表現することが好き
・自分で波を作ってその波に乗るのが好き(自発性が高い、誰にも頼まれていない)
=「おまえをにがす」の誕生

・長いスパンで作られる作品はファンに届くまでに時間がかかるが、届いたらゆっくり深めていける

・自分で波(流行)を作ることはとても大変だが、自分で作った波に乗りつづけることは容易い

つまり私の表現は「#うたつなぎ」と性質が正反対だったのです。

「#うたつなぎ」は、

・短いスパンの表現である
・誰かが流行りを作り、その波に乗る形をとる

・短いスパンで作られる作品は、届けるのは容易いが消費が早い

・他人の波(流行)に乗るのは簡単で楽しいが、波が静まったあとの自発性を失いやすい

短いスパンの表現、しかもこれがバトンという形式で、単発的にたくさんSNS上に露出される。この状況が起きるとどうなるか。

・コロナ含め、音楽業界の現状に対して「焼け石に水」的な対応になる
・未来志向ではなく、「今」的で身近なアウトプット。小手先の作品が増えがち
・「今」という瞬間を楽しめるエンタメとしての表現は増える

「つなげることの意味合い」を再認識するべき

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なみちえ

1997年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ・在住。東京藝術大学先端芸術表現科を首席卒業。在学時には平山郁夫賞、買い上げ賞を受賞。音楽活動や着ぐるみ制作・執筆などマルチな表現活動を行うアーティスト。 音楽活動はソロのほかにギャルサー:Zoomgals、兄妹で構成されたクリエイティブクルー:TAMURA KIN..

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