眠れという上司と眠るなという上司
『コンテイジョン』で描かれる組織は、CDC(疾病対策予防センター)だ。
CDCを統括するチーヴァー(ローレンス・フィッシュバーン)は、ミアーズ医師(ケイト・ウィンスレット)を調査のためにミネアポリスに送り出すときにこう言う。
「私とは携帯で常に連絡が取れる。援助が必要ならかけたまえ。役人から横槍が入ったときも、夜中に壁を見つめてなぜこんな仕事を受けたんだろうと思い悩むときも、かければいい」
また、上司のチーヴァーは、調査中のミアーズ医師と、こんな会話をする。
「どんな調子だ」
「ええ、進んでます」
「ミアーズ、何をしてるか聞いたんじゃない。君の様子を聞いたんだ」
「私は、大丈夫です」
「ほんとか。私は15年現場で働いていやな思いもした。何かあるなら言いたまえ」
と彼女のハードな状況を聞き出して、慰め、励ます。
さらに「疲れた声だ。いいか、少し眠らなきゃダメだ」と気遣うのだ。
一方で『感染列島』は、どうか。
現場を担当するのは、WHO(世界保健機関)から派遣されたメディカルオフィサー小林栄子(檀れい)。
WHOの統括者と彼女の会話は、ほとんどない。
ビデオチャットで事務的な連絡をするシーンが2回あるだけだ。
CDCのような専門対策組織が日本にないために、それを描けなかったのだろう。
そのかわり、派遣された小林栄子と、総合病院側が、どのようにタッグを組んでいくかが描かれる。
『感染列島』では、小林栄子が統括者として描かれる。
感染対策の専従スタッフを決めるシーンで、小林栄子はこう語りかける。
「みなさんもご承知のように、この仕事には肉体的にも精神的にもかなりの負担がかかります。専従スタッフとなればここに寝泊まりすることもやむを得ません。家庭を持っている人には大きな負担となります。何よりみなさんが感染する危険性もあります。しかし、みなさんの協力なしには患者さんの命を救うことはできないのです。お願いします。力を貸してください」
ひとりが手を挙げ、それにつづくようにして次々と手が挙がっていく。
盛り上げる音楽が流れるので感動的なシーンのようだ。が、今観ると、狭い会議室に100人以上のスタッフが「密!」でいるほうが気になってしょうがない。
そして、実際に専従スタッフが何日も家に帰っていない様子が描かれる。
「もういやだ。うちに帰りたい」と泣くスタッフ、「ここで看護師やってて、ずっと会ってないんです」と病院に来るけど会えない父と娘。
『コンテイジョン』では、「少し眠らなきゃダメだ」という上司が描かれ、『感染列島』では、「大きな負担となります」と宣言する上司が描かれる。