「自粛」と言わず「自宅充電」と呼ぶ。今の最善手とは(荻原魚雷)

2020.4.9


世の中の用事の大半は不要不急

山田風太郎の『風太郎の死ぬ話』(角川春樹事務所)に「半遁世の志あれど」というエッセイがある。

山田風太郎『風太郎の死ぬ話』(角川春樹事務所)

40歳になるかならないかというころ、蓼科(長野県)の森に山小屋を作った山田風太郎はこんな生活を夢見ていた。

なるべく仕事は少くして、毎日薪を割って風呂を焚くだけを日課とする。蓼科の山中だから訪れる人も稀だろうが、さらに新聞も読まない、テレビも見ない、食事はせいぜい干魚くらいをごちそうとし、世帯道具も最小のものにする、など。

ある種のミニマリズムといってもいいだろう。だが、照明はローソクというわけにもいかないから電気を使う。麓のスーパーに買い物に行く必要があるから車がいる。

人間はただ食って寝るだけの生活でもたいへんな道具立てが必要なものだ、と呆れかえる。

それでも山小屋生活を通して人間の活動の「半分はムダに浪費されている」と思うに至る。われわれの生活は、しなくてもいいことがたくさんある。もっとも「ムダ=無意味」というわけではないのだが。

同書の「千回分の食事予定表」にも自分の座右の銘は、しいていえば「したくないことはしない」と綴っている。

具体的な例をあげると、受験勉強などしたくないからしない。結婚式などしたくないからしない。生命保険など入りたくないから入らない。――というたぐいだ。

以上、 山田風太郎『風太郎の死ぬ話』(角川春樹事務所)

わたしの場合、食事はほぼ自炊。電話が嫌いだから、いまだに携帯電話(スマホ)を持っていない。満員電車に乗らない。行列に並ばない。疲れたら横になる。好きな時間に寝て起きる。

日常と非常事の差があまりない。

世の中の用事の大半は不要不急といえる。自分が何もしなくても地球も社会も回る。

ちなみに、わたしは現在の療養暮らしを「自粛」と言わず、「自宅充電」と呼んでいる。無駄な消耗を抑え、体力の温存につとめる。それが今の最善手だと思っている。


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荻原魚雷

(おぎはら・ぎょらい)1969年三重県鈴鹿市生まれ。1989年からライターとして書評やコラムを執筆。著書に『本と怠け者』(ちくま文庫)、『閑な読書人』(晶文社)、『古書古書話』(本の雑誌社)、編著に『吉行淳之介 ベスト・エッセイ』(ちくま文庫)、梅崎春生『怠惰の美徳』(中公文庫)などがある。毎日新聞..

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