いまやテレビに欠かせない存在となった小峠英二。変人っぷりでバラエティ番組を沸かし、趣味のキャンプで仕事の幅を広げる西村瑞樹。『キングオブコント2012』優勝から約10年、紆余曲折を経て、確固たる地位を築いたバイきんぐが今も大切にしているのが、単独ライブだ。
四半世紀にわたりコントと向き合ってきたふたり。40代後半の今、どのようにコントと向き合っているのか尋ねると、思いがけない力技を明かしてくれた。
バイきんぐ
小峠英二(ことうげ・えいじ/1976年6月6日生まれ、福岡県出身)と西村瑞樹(にしむら・みずき/1977年4月23日生まれ、広島県出身)のコンビ。『キングオブコント2012』チャンピオン。小峠は『2021テレビ番組出演本数ランキング』で4位(440本)にランクイン。西村も趣味のキャンプでブレイク中。
目次
インタビュー前編
『キングオブコント』優勝から10年のバイきんぐ。結婚、家族、中年男性としてのライフプラン
仕事がなくても嫉妬はないし、辞めようとも思わなかった
──『キングオブコント2012』優勝後、多忙になって悩むこともありましたか。
西村 途中から小峠がピンで出始めて、僕がめちゃくちゃヒマになった時期は「俺はこのままフェードアウトしていくのかな」と思いました。一番ひどいときで月に2回くらいしか仕事がなかったですから(笑)。
あの時期はいろいろ迷走しましたね……小型船舶の免許を取りに行ったり、スピードラーニングを始めたり。時間ばっかりあって、何かをやらなきゃいけないという焦りが募って。そのとき気まぐれにキャンプを始めて。別に仕事にする気もなかったですけど、今につながっていてありがたいです。
小峠 当時の僕はもう西村には構っていられなかったです。バイきんぐがふたり共いなくなるっていうのが一番よくないなと思っていたので、それだけはなんとか避けようと、とにかく毎日が必死でした。
──当時の西村さんは、いわゆる「じゃないほう芸人」みたいな位置づけだったと思うんですけど、それでも腐らなかったんですか?
西村 まったくなかったです。やっぱり小峠はおもしろいなと思ってコンビを組んでいるわけですから。小峠が出ている番組はだいたい録画して観ていました。
小峠 ふっ(笑)。
西村 それが今は録画が追いつかないくらい出ているでしょ。自分に実力がないだけってわかっているから、嫉妬はないんです。それはもう単純明快な世界ですから。
──「自分に実力がない」と認めながらも、芸人をつづけるのは苦しくなかったですか?
西村 それで辞めようとかはなかったです。根底には好きがあるから。
──小峠さんから見ても、西村さんの実力というのは……。
小峠 なかったですね(笑)。
西村 答えるの早いな!(笑)
小峠 やっぱり、西村はスタジオに向いていないんです。それは自分でもわかっていると思いますけど。
西村 うん。
小峠 でもそれは向き不向きだから。西村はスタジオが苦手だけど、ロケとかキャンプに付随するトークはおもしろい。その当時は向いていない仕事が多かっただけだと思います。
西村 賞レース優勝後って番組を一周するじゃないですか。昔から憧れていた芸人さんたちと絡むっていうのは……ねぇ。しゃべるだけでも緊張して普段どおりにはできない。でも小峠は最初からバンバン強めにツッコんでいって「コイツすげぇな」と思っていました。僕は全然できなかった。
セリフを忘れてもねじ伏せる、芸歴26年の技
──毎年恒例の単独ライブを今年も控えています(8月26日〜27日)。長年コントをやる中で、変化はありますか。
小峠 変化……お前(西村)がなんか言ってたよな、セリフがどうのこうのって。
西村 ああ、そうですね。昔は僕のほうがセリフを覚えるのが早くて、小峠は遅かったんです。でも、僕は忘れるのも早くて、小峠は一回覚えると忘れないっていう違いがあって。それが最近の僕は、覚えるのが遅くなって、忘れるのはもっと早くなってる(笑)。
小峠 なんもいいことねぇな!(笑)
西村 加齢ですね(笑)。
──それに合わせてセリフを減らしたり、対策はされますか?
小峠 いや、それはないです。でも去年でいうと、僕のほうがネタを飛ばしちゃって。『メイド喫茶』ってネタの後半だったんですけど、パンパンパンとテンポよくやりとりをしなくちゃいけないのに、最後のセリフがまったく出なくなったんです。でも、ここで止めるわけにはいかないから、「ヴァァァアアァーーー!!!!」って勢いだけで叫んで(笑)。
西村 あったね(笑)。気持ちよくリズムでいくやつだから、僕がそこのセリフを補ったり、促してあげたりすることもできなかった。
小峠 あれはさすがに今までにないトラブルでした。力技にもほどがある。しかもえらいことに、ちょっとウケるんです。何を言っているのかわからなくても、もう音だけでねじ伏せてしまった。あれは変化というか……ヒドかったですね。ひでぇよな、これで持っていくんだもんな(笑)。これは25年くらいやらないとできないです。
西村 そのへんの若手じゃ、あの選択肢は取れないです。
──バイきんぐのコントはアドリブはほとんど行わず、ほぼ台本どおりですよね。これからは、そうもいかないかもしれない。
小峠 そうですよね。年ですもんね。仕方がないです、それは。
西村 でも小峠がでたらめアドリブをやってくれたおかげで、僕もセリフが出ないときはアレをやればいいんだって安心はしました。
小峠 無意味な言葉で怒鳴り合うふたりのおっさん。それはいよいよヤバイよ(笑)。
小峠による、暗い通路で恐怖の“壁ドン”説教
──コントの稽古はどんな感じでやるんですか。
小峠 はい。ここ(事務所の会議室)で、ふたりでやってます。
西村 まずは台本を読み合わせながらセリフを覚えて、入ってきたら動きながら。
──ふたりきりって気まずくないですか。
西村 いや。
小峠 気まずくはならないです(笑)。
──作家さんを入れる芸人さんも多いと思うんですけど。
小峠 僕がネタを作っているときは作家さんと話しますけど、合わせるときはいつもふたりっきりです。
──いつごろから準備されるんですか。
小峠 本番の1カ月前からです。僕がそれまでにネタを仕上げるって決めているので、そこからです。
──小峠さんの厳しい指導はありますか。
西村 今はさすがにないです。昔はめちゃくちゃありました。『キングオブコント』って1年かけて、細かい調整を重ねながらひとつのネタをブラッシュアップしていきますから、あのころはピリピリしてましたね、怖かったですよ。
──どんなふうに怒るんですか。
西村 ネタライブで僕の間が悪かったり何かをミスったりすると、舞台をハケてすぐの暗い通路で壁ドンですよ(笑)。
小峠 (笑)。
西村 狭い通路の暗闇の中、小峠に壁ドンされながら「お前、何やってんだよ!」って詰められる。ネタが終わってすぐですよ! それくらいピリピリしていました。壁ドンで説教って、まぁ普通はないですよ。
小峠 はっはっは(笑)。
西村 あのときは、ネタに僕たちの人生がかかっていましたから。売れるためにやっていたあのころとは、そりゃ違いますよね。
「ネタ作りはずっとしんどい」「僕は楽しくて仕方ないです」
──賞レースの苦しい時代を超えて、毎年自分たちの単独ライブに集中できるのは楽しいですか。それともまた別の苦しみがある?
小峠 苦しいほうがでかいです。ネタ作りは今でもしんどいですから。
──それでもつづけるのはなぜでしょう。
小峠 うーん……芸人の仕事ってやんなくちゃいけないことがいくつかあると思うんですけど、そのうちのひとつが単独ライブだろうなっていうのはあるんで。義務感ですよね。
西村 僕はずっと単独ライブをつづけたいです。小峠はネタを書いているので産みの苦しみがあると思うんですけど、僕はもう楽しくて仕方がない。今年もまたこの季節が来たか、早くやりたいなって。
小峠 (笑)。
西村 演じるのが好きなんです。バイきんぐのネタって小峠は常に小峠なんですよ。でも僕はいろんなヤツをやってるから、それが楽しいです。
──昨年はVR配信の試みもされていました。今年も何か新しい仕かけはありますか。
小峠 ライブビューイングをやります。バイきんぐの単独としては初めて。でもコント作りで変化はないかな。
──長年やってきてネタのテイストは変化していますか。
小峠 変わらないです。新しいことをしようとは思わないですし、おもしろいネタができたらいいよなってだけで。今さらSF的な設定に手をつけようとは思わないでしょう。
西村 でも小峠、今でこそリアリティを重視したネタを書いていますけど、昔は亀甲縛りした地底人の役とかやってました。
小峠 あぁ、あれ地底人だったな(笑)。
西村 だから初期のバイきんぐから比べたら、今はめちゃくちゃ変わっているんです。
──地底人の再演も見たいです。
小峠 いやあ、絶対やらないです(笑)。
インタビュー動画も公開中
バイきんぐ単独ライブ『キャバレー』ライブビューイング
日時:2022年8月27日(土)17時開演予定
※開場時間は映画館によって異なります。
会場:札幌シネマフロンティア/MOVIX仙台/新宿バルト9/横浜ブルク13 /イオンシネマ幕張新都心/イオンシネマ浦和美園/ミッドランドスクエア シネマ/梅田ブルク7/T・ジョイ京都/OSシネマズ神戸ハーバーランド/広島バルト11/T・ジョイ博多
料金:3,000円(税込・全席指定)
チケット:イープラスで販売中