『完全自殺マニュアル』著者・鶴見済が提案する“人間関係を半分休む”方法

2022.7.1

「ゆるい人間関係」の提案

新刊『人間関係を半分降りる』では、自身の“これまで”を振り返り、人間関係の新たな形を模索する。そこで重要な視点となるのが、タイトルに冠された「半分降りる」という言葉だろう。

「人間関係がつらいなら、付き合い自体をやめて孤独になればいい、という意見もあるかもしれません。もちろん、嫌な人と一緒にいるくらいならひとりでいたほうがマシです。実際、僕も一時的に人とあまり会わない時期がありました。でも、それが長期的かつ完全なる孤独となると、そのほうがいいと言う人はそんなに多くないと思います。

じゃあ、どうすればいいのかと言えば、『人間関係を半分降りる』ならぬ『半分休む』くらいの心持ちで人と接すればいいんです。人間関係における『こうあるべし』みたいな圧から逃げてみるのも、そのひとつの方法ではないでしょうか。『友情』は大事かもしれませんが、『絶対』ではない。しんどければ一時的に離れたっていい、くらいにゆるく考えてみる、とか」

『人間関係を半分降りる』を読むと、こうした「ゆるい人間関係」の提案は、社会が要請する「常識」を疑え、という強いメッセージと表裏一体の関係性にあることがわかる。

「家族のことにせよ、恋愛にまつわることにせよ、僕たちは『こうじゃなきゃいけない』という社会の圧を感じながら生きています。でも、そもそもそんなこといつから言われるようになったんだ?と思うわけです。歴史を紐解いてみれば、『家族や親子関係は素晴らしい』みたいな常識も、明治時代以降に西洋から入ってきた啓蒙思想に端を発するものであって、それほどの伝統もない。恋愛だって、今でこそ『幸せになるために絶対必要なこと』扱いですが、お見合い結婚が主流だった戦前は、そんなことはなかった。

しかも、今は子供を持たない生き方も増えてきていて、現に出生率も下がってきている。子供を作ることが『絶対』ではなくなった今、そのために必ず通らなければならなかった恋愛や結婚もマストではないし、その価値も必然的に低下しています。こうした視点で社会を眺めてみると、自分たちを縛っていたものの正体がわかってきて、自由に生きるための取っ掛かりが見えてくるのではないでしょうか」

『人間関係を半分降りる 気楽なつながりの作り方』
『人間関係を半分降りる 気楽なつながりの作り方』鶴見済/筑摩書房/2022年7月1日発売/1,540円(税込)

「あきらめの力」で世界を反転させる

鶴見は、「人間関係を半分休む」のさらに一歩先に、「優しい人間関係に乗り換える」という可能性も提示する。そこに至るまでには、乗り越えてきた長く苦しい日々があったという。

「僕は高校時代、対人恐怖症で苦しんでいました。人に自分がどういうふうに見られているのかが気になって、いつもビクビクしていた。今から考えると、厳しい視線に常に晒されていたことが原因だったんだな、とわかります。自分をからかったり、観察したりする人たちの視線に晒されていたから、ますます周りの目が気になってしまうという悪循環に陥っていた。もし、こちらにネガティブな感情を向けてこない人たちの中で、無理なく自分らしくいられたら、状況はかなり違っていたと思います」

「不適応者の居場所」も、こうした気づきをきっかけに生まれたものだったという。しかし、人が集まれば、自ずとそこにはパワーバランスが生まれ、時に「厳しい視線」が生まれてしまうこともあり得る。優しい人間関係を維持するために意識していることはあるのだろうか。

「参加者には『お互い様の気持ちを持つ』ということをお願いしています。人は、物をもらうとお返ししたくなるものです。これは『気持ち』にも同じことが言える。好意を寄せられたら好意を返したくなるし、悪意を向けられたら悪意を返したくなる。それがわかっていたら、一方的に悪意を向けたりはできないですよね。まあ、言うは易し行うは難しなので、試行錯誤の連続ですけれども。

思えば、デビュー作『完全自殺マニュアル』の時から、僕は一貫して『生きづらさ』をテーマにあーでもないこーでもないと思索を繰り返してきました。今回の本を書いていて気がついたのですが、僕の言う『降りる』とか『休む』は、突き詰めれば『あきらめる』ということなんですよね。

『完全自殺マニュアル』では、『いざという最悪の時には死ぬことだってできるのだと思えば、楽に生きていける』と言っています。これは、いわば『あきらめの力』でもって世界を反転させる、ということです。問題を解決しようとしている時間は、誰にとっても苦しいものです。でも、それを『えいや!』とあきらめたとき、人は肉体的にも精神的にも楽になる感覚を覚えます。『もう失うものは何もない』という開き直りの感覚に近い。それは、僕たち人間の持つ大きな力なのだなと、今、改めて実感しています」

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